棘に覆われた砂地のヒトデ「トゲモミジガイ」。 トゲだけでなく、高速で進む砂地専用の足を持ち、体内にはフグと同じ猛毒のテトロドトキシンを持ちます。 さらに、砂に潜って隠れるなど、鉄壁の防御を持つ「砂地の防御スター」です。
概要
和名:トゲモミジガイ
英名:Brown spotted combstar
学名:Astropecten polyacanthus Müller & Troschel, 1842
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:通年
- 主な水深:10m
- 映像特徴:砂地を進むトゲモミジガイ。管足の様子、砂に潜る様子。
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 総ビットレート:60424kbps
- 長さ:3 分 58 秒
- サイズ:1.67GB
分類・分布
【分類】棘皮動物門 > ヒトデ綱 > モミジガイ目 > モミジガイ科 > モミジガイ属 > トゲモミジガイ
【分布】本州中部以南
特徴・雑学
トゲモミジガイは「棘紅葉貝」と、名前に貝がつくものの、5本の腕を持つヒトデの仲間です。 体の縁には鋭い棘が並び、まるでスパイクド・アーマーのように全身を棘で武装した特徴的な姿をしています。
岩礁に張り付いて暮らすヒトデとは異なり、砂地での生活に適応しています。 海底の砂の上を移動し、危険を感じたときや休息時には砂の中へ潜ることもあります(1)。
岩に張り付かない・砂地のヒトデ
一般的なヒトデの管足は、先端が吸盤状になっており、岩などに吸着して体を固定しながら移動します。 一方、トゲモミジガイの管足には発達した吸盤がなく、先端は尖った円錐状をしています(2)。 この管足は岩に強く吸着することには向いていませんが、柔らかな砂の中へ差し込み、砂を押すようにして進むことができます。
トゲモミジガイの管足
▲ 吸着能力がないわけではない
▲ 先端は円錐状に尖る
吸盤を持たない管足は移動だけでなく潜砂にも適しています。 砂の中へ潜ることで身を隠すことができ、広く開けた砂地で生活するうえで大きなメリットとなります。 岩などに強く張り付く能力は吸盤状の管足を持つヒトデに劣りますが、生息環境への適応をよく表している特徴のひとつです。
吸盤で岩に張り付いて進む
見かけはダテじゃない・猛毒を持つヒトデ
トゲモミジガイは、フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)を持つことが知られています。 テトロドトキシンはトゲモミジガイ自身が体内で合成しているのではなく、餌となる生物などを通じて食物連鎖の中で取り込まれ、体内に蓄積していると考えられています。
広島県で採集された個体を調べた研究(3)では、特に卵巣の毒性が高く、最高1,450 MU/gが検出されました。
また、消化器官からは最高960 MU/g、棘や管足を含む外骨格からも最高170 MU/gが検出されています。
さらに、1個体が持つ総毒量は、雌で平均2,060 MU、雄で平均1,106 MUに達しました。
毒は内臓だけでなく体表部分にも存在するため、トゲモミジガイは食用にすべきではなく、取り扱いにも注意が必要なヒトデです。
この強い毒は、捕食者に対する化学的な防御として働いていると考えられます。 ただし、テトロドトキシンを持っているからといって、すべての生物から捕食されないわけではありません。 ボウシュウボラなど一部の海洋生物にはテトロドトキシンに対する高い耐性が知られており、毒を持つヒトデ類を捕食する例があります。
砂地のヒトデの食事作法?
トゲモミジガイは肉食性のヒトデで、砂地に生息する貝類やゴカイ類などの小型の底生動物を捕食します。 砂の表面だけでなく、砂中に潜む生物も餌の対象となり、砂地を活発に移動しながら獲物を探します。
一般的なヒトデには、胃を体外へ反転させて獲物を包み込み、体外で消化するように食べる種類が多く見られます。 一方、トゲモミジガイを含むモミジガイ類は、捕らえた獲物を口から丸ごと飲み込む捕食方法をとります。 そのため、口から取り込むことのできる大きさの小動物が主な獲物となります。
こうした食性は、トゲモミジガイの管足のつくりとも深く関係しています。 一般的なヒトデの多くは、吸盤のある管足で二枚貝などの獲物をしっかりと保持し、殻を開かせて胃を体外へ反転させながら捕食します。
一方、トゲモミジガイの管足には発達した吸盤がなく、獲物を強くつかんで押さえ込むことには適していません。 その代わり、捕らえた小型の貝類やゴカイ類などを口から丸ごと飲み込んで捕食します。
分裂して増殖はしない
また、ヒトデ類には高い再生能力があり、トゲモミジガイも損傷した腕を再生することができます。 ただし、これは傷ついた体を修復する能力であり、体を分裂させて個体数を増やす無性生殖とは異なります。 トゲモミジガイは、分裂によって繁殖するヒトデとしては知られていません。
トゲモミジガイは雌雄が分かれており、繁殖期になると卵と精子を海中へ放出して受精する有性生殖を行います。 受精卵から生まれた幼生は、成体とはまったく異なる姿で海中を漂う浮遊生活を送り、成長すると海底へ着底してヒトデの姿へと変態します。 砂地を歩き回る成体とは異なり、幼生期には海中を漂う時期を持つため、自力で移動できる範囲を越えて分布を広げることができます。
ヒトデの仲間には、体を分裂させたり、切り離された腕から新しい個体を再生したりして無性生殖を行う種類もいますが、トゲモミジガイでは、このような分裂による繁殖は通常の繁殖方法として知られていません。
分裂後に小さな腕が生えてくる
食・利用
テトロドトキシンを持つため、食用にはなりません。
毒・危険性
トゲモミジガイは、フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)を持つことが知られており、食用には適しません。
加熱、冷凍、乾燥しても無毒化しない神経毒TTX
日本の一部地域では、マヒトデなど一部の種類の生殖腺を食用にする文化があります(4)。 しかし、すべてのヒトデが食用にできるわけではありません。 トゲモミジガイでは、卵巣から特に高濃度のテトロドトキシン(TTX)が検出されています(3)。 テトロドトキシンは強力な神経毒であるうえに、加熱や冷凍、乾燥をしても無毒化されないため、安全に食べられるものではありません。 トゲモミジガイは絶対に食べないでください。
一方、テトロドトキシンを持っているからといって、触れただけで直ちに中毒するわけではありません。 TTXは皮膚から容易に吸収される毒ではないため、通常の皮膚で短時間触れたことだけで中毒する危険性は低いと考えられます。
ただし、トゲモミジガイの体の縁には鋭い棘が多数あり、素手で強くつかむと皮膚を傷つける可能性があります。 傷口や粘膜への接触、触った手で口や目に触れることは避け、むやみに素手で扱わない方が安全です。
1本の腕の長さが30センチを超える
表面の皮鰓と呼ばれる呼吸器官がよく見える
参考資料
- JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 原色検索日本海岸動物図鑑Ⅱ・西村三郎編著・保育社
- 1)トゲモミジガイ
新潟市水族館 マリンピア日本海
新潟市水族館 マリンピア日本海 生物図鑑
DOI: なし
▶ 見る - 2)Histology and ultrastructure of the tube foot epithelium in the phanerozonian starfish,
Astropecten
(モミジガイ属ヒトデの管足上皮における組織学的および超微細構造学的研究)
M. S. Engster, S. C. Brown
Tissue and Cell, 4(3), 503–518(1972)
DOI: 10.1016/S0040-8166(72)80026-0
▶ 見る - 3)Distribution of tetrodotoxin in various organs of the starfish Astropecten polyacanthus
(トゲモミジガイの各器官におけるテトロドトキシンの分布)
K. Miyazawa, M. Higashiyama, K. Hori, T. Noguchi, K. Ito, K. Hashimoto
Marine Biology, 96, 385–390(1987)
DOI: 10.1007/BF00412522
▶ 見る - 4)天草名物!?
Amakusa スタッフブログ 天草日記
一般社団法人 天草宝島観光協会(2017)
DOI: なし
▶ 見る - 5)Occurrence of tetrodotoxin in the starfishes Astropecten polyacanthus and A. scoparius in the
Seto Inland Sea
(瀬戸内海産トゲモミジガイおよびモミジガイにおけるテトロドトキシンの存在)
K. Miyazawa, T. Noguchi, J. Maruyama, J. K. Jeon, M. Otsuka, K. Hashimoto
Marine Biology, 90, 61–64(1985)
DOI: 10.1007/BF00428215
▶ 見る