概要
和名:モモイロサルパ
英名:salp
学名:Pegea confoederata
サルパはシリコンゴムのような硬めの感触をしたゼラチン質でできた、タリア綱に属するホヤの仲間です。
自力で進む能力はありますが、黒潮などの潮流や風などの影響を受けながら移動するため、ダイビングで出会えるかどうかは自然まかせです。
映像は5月の伊豆半島、黄金崎で撮影されたモモイロサルパの連鎖個虫で、有性生殖を行って単独個体を産む世代です。
単独個体は連鎖個虫が千切れたものではなく、サルパの生活環の一部の形態です。
- 撮影場所:静岡県賀茂郡西伊豆町
- 撮影時期:5月
- 主な水深:8メートル
- 映像特徴:モモイロサルパの連鎖個虫
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:1分10秒
- サイズ:320MB
分類・分布
【分類】脊索動物門 > タリア綱 > サルパ目 > サルパ科 > モモイロサルパ属 > モモイロサルパ
【分布】世界の温帯から熱帯の表層海域に分布。日本沿岸でも春から夏にかけて見られる。
特徴・雑学
モモイロサルパを含むサルパ類は、クラゲのように見える透明な筒状の体を持つ浮遊性の動物で、脊索動物に分類されるホヤの仲間です(1)。
サルパは、体内に海水を取り込んで濾過し、プランクトンを食べています。また、取り込んだ海水を勢いよく吐き出すことで推進力を得ています。
やや硬いゼラチン状の体は、触るとシリコンゴムのような感触です。
炭素の凝縮
サルパは、体内に取り込んだ海水から植物プランクトンをこし取って栄養にします。
食べたあとは、それを消化して非常に密度の高い糞(ふん)として排出します。
この糞は重く、海の中を急速に沈みながら、1000メートル以上の深海にまで到達することが観察されています。
植物プランクトンは光合成によって、海水中に溶けている二酸化炭素(CO₂)を吸収しています。
つまり、サルパが植物プランクトンを食べて糞として海底に沈めることで、海水中のCO₂(炭素)が減ることになります。
すると、海面を通じた大気との「ガス交換」によって、大気中のCO₂が海に取り込まれやすくなり、結果として空気中の二酸化炭素も減ると考えられています(2)。
このように、サルパによる「炭素の沈降」は、地球規模の炭素循環を支える“生物ポンプ(biological pump)”の一部です。
糞が深海に到達すれば、炭素は数百年から数千年ものあいだ海底にとどまり、温暖化ガスとして大気に戻ることはありません。
サルパは、大気中の炭素を深い海の中へと封じ込め、地球の気候を安定させる役割を担っているとされています(3)。
サルパの生活環
サルパは、「有性生殖世代(ブラストゾイド:blastozooid)」と「無性生殖世代(オーゾイド:oozooid)」を交互に繰り返す、世代交代型の生活環を持っています。
有性生殖世代では、複数の個体が直線的であったり、斜め、螺旋のように繋がっており、「連鎖個虫」と呼ばれます(4)。
連鎖個虫の一つ一つは、無性生殖世代によってつくられたクローンで、それぞれが特殊な器官で接続され、互いに意思疎通を行うことができると考えられています。
連鎖個虫は先雄性の雌雄同体で、最初はオスとして精子を放出し、その後メスとなって卵を持ちます。
放出された精子は、すでにメスになっている別の連鎖個虫の体内に入り、卵を受精させて「胚」を形成します。
この胚が成長し、無性生殖世代である「オーゾイド」となって放出されます。
無性生殖世代(オーゾイド)は連鎖せず、単独で生活するため「単独個体」と呼ばれます。
単独個体の体内には「出芽帯(ストロン:stolon)」があり、ここでクローンが次々と作られます。
クローンはベルトのように繋がった連鎖個虫(ブラストゾイド)となって出産され、再び有性生殖を行います。
サルパの生活環の概略図
▲ 連鎖個虫と単独個体を繰り返す
単独個体から連鎖個虫が出ている
▲ 連鎖個虫は全てクローン
このように、無性により連鎖群体を生み、有性により個体を生むという二形世代を交互に繰り返すサルパの生活史は、動物として非常に特異です。
しかも、オーゾイドが出産するブラストゾイドは全てクローンであり、同一遺伝子を持ちながらも役割や形態を変えて世代交代を実現します。
単独個体として漂うオオサルパの水中映像
食・利用
食用としては利用されておらず、市場にも出回りません。
研究対象や教育用教材としての価値があります。
毒・危険性
毒はなく、人間に対する危険性もありません。素手で触れても問題ない生物です。
海中で死んだサルパが、ほかの生物の餌として利用される様子
サルパを利用する浮遊性甲殻類、オオタルマワシの水中映像
参考資料
-
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)BISMaL
▶ 見る - 原色魚類大図鑑・北隆館
- 日本海岸動物図鑑Ⅱ・保育社・西村三郎編著
- 伊豆の海 海中大図鑑・データハウス・伊藤勝敏著
-
1)Specimen of the Week 348: The salp
週刊標本 第348回:サルパ(Salp)
UCL Museums & Collections(UCL 博物館・コレクション)
University College London(2018)
▶ 読む -
2)The Outsized Role of Salps in Carbon Export in the Subarctic Northeast Pacific Ocean
(海洋におけるサルパの炭素輸送の際立った役割 — 北東太平洋亜寒帯域)
Deborah K.Steinberg ,Karen Stamieszkin,Amy E.Maas,Colleen A. Durkin
Global Biogeochemical Cycles 巻号:Vol.37,No.1 No.e2022GB007523(2023)
▶ 読む -
3)Population dynamics of Salpa thompsoni near the Antarctic Peninsula: growth rates and interannual variations
in reproductive activity (1993-2009)
(南極半島付近におけるサルパ Salpa thompsoni の個体群動態:成長速度と繁殖活動の年変動(1993〜2009))
V.J.Loeb , J.A.Santora
Progress in Oceanography Vol.96,Issue1 p93-107(2012)
▶ 読む -
4)A New Molecular Phylogeny of Salps (Tunicata: Thalicea: Salpida) and the Evolutionary History of Their
Colonial Architecture
(サルパ類(被嚢動物:タリア綱:サルパ目)の新しい分子系統と、群体構造(コロニー建築)の進化史)
A. Damian-Serrano、M. Hughes、K. R. Sutherland
Integrative Organismal Biology(2023)DOI:10.1093/iob/obad037 PMID:37840689
▶ 読む