半透明で浮遊生活をするサルパは、クラゲのように見えますが、実際にはホヤに近い「脊索動物(尾索動物の仲間)」の浮遊生物です。 海中を漂いながら、体内に取り込んだ海水をろ過して、植物プランクトンなどを食べて暮らします。
概要
和名:オオサルパ
英名:Thetys salp
学名:Thetys vagina Tilesius, 1802
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:3月
- 主な水深:3m
- 映像特徴:オオサルパの単独個虫(オーゾイド)
提供映像(サンプル映像はYouTube版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
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分類・分布
【分類】脊索動物門 > タリア綱 > サルパ目 > サルパ科 > オオサルパ属 > オオサルパ
【分布】外洋の表層〜中層を漂う浮遊性の生物です。
特徴・雑学
透明だけどクラゲではない・ホヤの仲間サルパ
半透明で浮遊する姿はクラゲに似ていますが、分類的にはホヤに近いグループです。
体の中を海水が通り、粘液のフィルターのような仕組みで微小な粒子(植物プランクトンなど)をこし取って食べます。
潮流に身を任せているように見えますが、体内に水流を作り、それを吐き出すことで、ゆっくりと進むことはできます。
条件がよければ1時間で体調が10%増加するとされ「地球上でもっとも早く成長する多細胞生物」と言われています(1)。
サルパの不思議な世代交代
サルパは、「有性生殖世代(ブラストゾイド:blastozooid)」と「無性生殖世代(オーゾイド:oozooid)」を交互に繰り返す、世代交代型の生活環を持っています(2)。 有性生殖世代では、複数の個体が「ベルト」のようにつながって連なっており、「連鎖個虫」と呼ばれます。 これらの個体は、無性生殖世代によってつくられたクローンで、それぞれが特殊な器官で接続され、互いに意思疎通を行うことができます。
▲ サルパの生活環のイメージ図
連鎖個虫は先雄性の雌雄同体で、最初はオスとして精子を放出し、その後メスとなって卵を持ちます。 放出された精子は、すでにメス期にある別の連鎖個虫の体内に入り、卵を受精させて「胚」を形成します。 この胚が成長し、無性生殖世代である「オーゾイド」となって放出されます。
無性生殖世代(オーゾイド)は連鎖せず、単独で生活するため「単独個虫」と呼ばれます。 単独個虫の体内には「出芽帯(ストロン:stolon)」があり、ここでクローンが次々と作られます。 クローンはベルトの様に繋がった連鎖個虫(ブラストゾイド)となって出産され、再び有性生殖を行います。
このように、無性により連鎖群体を生み、有性により個体を生むという二形世代を交互に繰り返すサルパの生活史は、動物として非常に特異です。 しかも、オーゾイドが出産するブラストゾイドは全てクローンであり、同一遺伝子を持ちながらも役割や形態を変えて世代交代を実現します。
有性生殖を行うブラストゾイド
サルパが行う「炭素の凝縮」
サルパは、体内に取り込んだ海水から植物プランクトンをこし取って栄養にします。 食べたあとは、それを消化して非常に密度の高い糞(ふん)として排出します。 この糞は重く、海の中を急速に沈みながら、1000メートル以上の深海にまで到達することが観察されています。
植物プランクトンは光合成によって、海水中に溶けている二酸化炭素(CO₂)を吸収しています。 つまり、サルパが植物プランクトンを食べて糞として海底に沈めることで、海水中のCO₂(炭素)が減ることになります。 すると、海面を通じた大気との「ガス交換」によって、大気中のCO₂が海に取り込まれやすくなり、結果として空気中の二酸化炭素も減ると考えられています(3)(4)。
このように、サルパによる「炭素の沈降」は、地球規模の炭素循環を支える“生物ポンプ(biological pump)”の一部です。 糞が深海に到達すれば、炭素は数百年から数千年ものあいだ海底にとどまり、温暖化ガスとして大気に戻ることはありません。 サルパは、大気中の炭素を深い海の中へと封じ込め、地球の気候を安定させる役割を担っているとされています。
食・利用
サルパの食用に関する資料は見つかりません。
毒・危険性
人に対する毒性や危険性の情報はありません。
炭素の凝縮為以外にも役立っている
参考資料
-
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)BISMaL
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 日本海岸動物図鑑Ⅱ・保育社・西村三郎編著
- 伊豆の海 海中大図鑑・データハウス・伊藤勝敏著
- 1)Specimen of the Week 348: The salp
週刊標本 第348回:サルパ(Salp)
UCL Museums & Collections(UCL 博物館・コレクション)
University College London(2018)
▶ 読む - 2)A New Molecular Phylogeny of Salps (Tunicata: Thalicea: Salpida) and the Evolutionary History of Their Colonial Architecture
(サルパ類(被嚢動物:タリア綱:サルパ目)の新しい分子系統と、群体構造(コロニー建築)の進化史)
A. Damian-Serrano、M. Hughes、K. R. Sutherland
Integrative Organismal Biology(2023)DOI:10.1093/iob/obad037 PMID:37840689
▶ 読む - 3)The Outsized Role of Salps in Carbon Export in the Subarctic Northeast Pacific Ocean
(海洋におけるサルパの炭素輸送の際立った役割 — 北東太平洋亜寒帯域)
Deborah K.Steinberg ,Karen Stamieszkin,Amy E.Maas,Colleen A. Durkin
Global Biogeochemical Cycles 巻号:Vol.37,No.1 No.e2022GB007523(2023)
▶ 読む - 4)Population dynamics of Salpa thompsoni near the Antarctic Peninsula: growth rates and interannual variations in reproductive activity (1993-2009)
(南極半島付近におけるサルパ Salpa thompsoni の個体群動態:成長速度と繁殖活動の年変動(1993〜2009))
V.J.Loeb , J.A.Santora
Progress in Oceanography Vol.96,Issue1 p93-107(2012)
▶ 読む