ミサキヒモムシ

歩く紐の猛毒

Notospermus geniculatus

体を伸縮させて海底を歩くミサキヒモムシ。 まるで小さな蛇のように見えます。 ヒモムシの中でもミサキヒモムシのみ、体内に猛毒のテトロドトキシン(フグ毒)を含みます。

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概要

和名:ミサキヒモムシ、クロヘラヒモムシ

英名:banded bootlace

学名:Notospermus geniculatus (Delle Chiaje, 1828)

提供映像(サンプル映像はYouTube版です)

分類・分布

【分類】紐形動物門 > 担帽綱 > 異紐虫目 > リネウス科 > ミサキヒモムシ属 > ミサキヒモムシ

【分布】三崎以南の太平洋側、佐渡以南の太平洋側、地中海、黒海、アフリカ西岸、太平洋東岸メキシコ、パナマ

特徴・雑学

ミサキヒモムシは、その名の通り、ひものように細長く柔らかな体を持つ海の生物です。 体を伸び縮みさせながら海底を進み、その動きは非常にユニークで、観察するとまるで一本のひもが生きているかのような印象を受けます。

世界中の海に広く分布し、日本沿岸でも潮間帯から浅い海の岩礁や転石の下などで見られます。 色は茶色や紫色がかったものが多く、見た目はやや地味ですが、独特な体のつくりや捕食方法を持つ、生態的に非常に興味深いグループです。

二つの和名はどちらも正解?

ミサキヒモムシは、現在では「クロヘラヒモムシ」という和名でも呼ばれています。 古くから国内では「ミサキヒモムシ」の名称が広く使われてきましたが、近年は分類データベースなどで「クロヘラヒモムシ」が採用・併記される例も見られます。 どちらも同じ種を指す名称であり、現在のところ一方だけが正しいというわけではありません。

伸縮で歩く・柔軟なヒモムシのからだ

体には体節がなく、表面は粘液に覆われているため滑らかです。 危険を感じると体を素早く縮めたり、岩の隙間や砂の中へ潜り込んだりして身を守ります。 また、ヒモムシ類の大きな特徴として、獲物を捕らえるための長い吻(ふん)を持っており、多くの種類は小型の甲殻類やゴカイなどを捕食しています。

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食・利用

体内にテトロドトキシン(フグ毒)を持つため、食用にはできません。 テトロドトキシンは加熱しても冷凍しても無毒化はしませんので、安易な食用は危険です。

毒・危険性

今でも研究中・猛毒を持つヒモムシたちと持たないヒモムシたち

ミサキヒモムシは、非常に強いテトロドトキシンをもつことが確認されています(1)。 広島湾で行われた調査では、個体全体から極めて強い麻痺性毒が検出され、最高毒性は1グラム当たり25,590マウスユニットに達しました。 これは、1個体に含まれる毒量が人の致死量を上回る可能性があるほどの高い値です。

1998年から2005年までの調査では、約80%の個体が1グラム当たり1,000マウスユニット以上の「強毒」に分類され、48%は2,000マウスユニットを超えていました。 毒性には季節による変化が見られたものの、北海道の厚岸湾や岩手県の大槌など、広島湾とは異なる地域や環境で採集された個体からも高い毒性が確認されています。

特に重要なのは、当時の同調査で12種のヒモムシ類を調べた結果、極めて高い毒性が確認されたのはミサキヒモムシだけだったことです。 少なくともこの研究(1)で調査された他のヒモムシ類からは、ミサキヒモムシと同程度の強い毒性は確認されていません。 このため、ミサキヒモムシは、生息地域や環境にかかわらず、強いテトロドトキシン毒性をもつ特異なヒモムシ類と考えられています。

近年の研究では、ミサキヒモムシだけでなく、近縁のヒモムシからも高濃度のテトロドトキシンやその類縁体が確認されています(2)。 また、卵や幼生にも毒が含まれ、周囲の海洋生物へ移行する可能性も指摘されています。 このため、種類を見た目だけで判断することが難しいヒモムシ類を食用にすることは、中毒の危険があるため避ける必要があります。

平たい体で泳ぐカリオヒラムシ カリオヒラムシの泳ぐ様子(水中映像)

ヒラムシにはテトロドトキシンを持つ種類もいる

剛毛に毒成分のあるウミケムシ 毒を持つウミケムシの水中映像

夜に活発に活動し、夜釣りで釣れてしまうほどだという

内臓に有毒なテトラミンを蓄積するボウシュウボラ 内臓にテトラミンを蓄積するボウシュウボラの産卵水中映像

内臓を除去して珍味として食される

参考資料

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