メバル

尿のフェロモンで求愛

Sebastes inermis

メバルの繁殖期には、「オスがメスの顔の前で放尿する」という求愛行動が見られます。 非常に大胆な求愛ですが、メバルにとっては大切な伝達手段であり、機能的に繁殖を助ける役割もあります。

🔬 専門資料・出典引用(10件)

概要

和名:メバル

英名:Black rockfish

学名:Sebastes inermis Cuvier, 1829

   Sebastes ventricosus Temminck & Schlegel, 1843

   Sebastes cheni Barsukov, 1988

  • 撮影場所:静岡県伊東市
  • 撮影時期:10月~2月
  • 主な水深:8m~25m
  • 映像特徴:メバルの求愛行動、求愛中の雄体色変化

提供映像(サンプル映像はYouTube編集版です)

  • コーデック:H264-MPEG4AVC
  • 解像度:1920x1080
  • フレームレート:59.94
  • 総ビットレート:60438kbps
  • 長さ:4分 26秒
  • サイズ:1.87GB

分類・分布

【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > カサゴ目 > メバル科 > メバル属 > アカメバル

【分布】南北海道から九州、朝鮮半島

特徴・雑学

メバルは大きな目とやや丸みのある体を持つ魚です。 体色には環境や個体差がありますが、岩場や海藻の風景に溶け込む保護色となっています。 北海道南部から九州まで広く分布し、沿岸の岩礁域や海藻が茂る場所、防波堤周辺などに生息します。
伊豆半島では、求愛は11月頃から2月頃に行われ、1月から4月に出産します。

今にも出産しそうな、お腹の大きいメスのメバル 出産しそうなメスのメバル

2012年2月、静岡県伊東市にて撮影

繁殖の意思疎通・尿のフェロモン

一般的な海水魚では、体内の浸透圧調節の仕組みから尿の生成量が少ないため、尿をフェロモンの媒体として機能させることは無いと考えられてきました。 しかし、クロメバルでの実験では、オスがメスへ接近する際に音を発し、その後にメスの鼻先へ向けて尿を放出する求愛行動が確認されています(1)

オスが発する音声は求愛行動の初期段階で多く記録されており、求愛を始める合図としてメスに働きかけている可能性があると考えられています。 その後に放出される尿は、繁殖に関わる情報を伝える役割を担っている可能性が示されています。

より確実に!・尿と精子を混ぜる

タケノコメバルの人工授精では、精液にオスの尿を加えて精子が活発に動ける状態にした精子液を作製し、メスの生殖口へ注入する方法が用いられています(2)。 この技術は特許化されており(3)、高い受胎率が報告されています。
魚類では、精子の通り道と尿道が共通しているため、自然界での交尾においても、精子と尿がともにメスの体内へ送り込まれると考えられています。

交尾しても受精させない・貯蔵される精子

同じメバル科のクロソイでは、交尾後の精子はメスの卵巣内で約6か月間保存されることが知られています。 交尾直後の精子は卵巣液中を活発に遊泳していますが、その後は卵胞の周囲に形成される「クリプト(陰窩)」と呼ばれる小さな空間へ移動し、卵巣上皮に包み込まれるようにして、受精の時期まで生存します(4)

メバルでも、求愛・交尾の時期にはメスの体内にある卵はまだ十分に成熟しておらず、交尾によって受け取った精子は卵巣内で数か月間保存され、卵が受精可能な状態まで成熟すると受精に利用されると考えられています。 このような長期間の精子貯蔵は、卵胎生であるメバル科魚類の繁殖を支える重要な仕組みの一つです。
一方で、精子を長期間貯蔵しなければならないほど、オスが求愛・交尾を行う時期とメスが受精可能となる時期にずれが生じる理由については、現在も明らかになっていません。

激しく嚙み合って縄張り争いをするメバルのオス 激しく嚙み合って縄張り争いをするメバルのオス

かなり遠くから侵入者を察知する

メバルは求愛で体色が変わる?映像で捉えた変化

メバルには赤っぽい個体や黒っぽい個体、茶色っぽい個体など複数の色彩型(モルフ)が知られており、生息する環境によって体色や模様の現れ方にも違いが見られます(5)。 一方で、魚類では色素胞の働きによって体色や模様が瞬時に変化する「生理的体色変化」が広く知られていますが、メバルについては、その仕組みや役割はほとんど研究されておらず、詳しいことはよくわかっていません。

本映像では、求愛中のオスの頭部から第一背鰭にかけて白っぽくなり、茶色の部分に見られる濃い斑紋が一時的に消失する様子を確認できます。 その後、求愛に失敗すると約5秒で元の体色と斑紋に戻りました。
ただし、この現象は観察したすべての求愛行動で見られたわけではなく、多数の求愛行動を観察した中で確認できた一組のオスでのみ記録されたものです。 また、野外ではアカメバル・クロメバル・シロメバルの識別が難しいため、この個体がどの種であったかは特定できていません。 そのため、この体色変化が3種すべてに共通する現象なのか、それとも特定の種に見られる現象なのかも現時点では不明です。

このことから、メバルでも状況に応じて体色や模様を瞬時に変化させる能力をもつ可能性が示唆されますが、その意味や仕組みについては今後の研究が期待されます。

求愛中の雄メバルの体色変化を捉えた映像 求愛中の雄メバルの体色変化を捉えた水中映像

求愛に失敗した直後に通常の模様に戻る

食・利用

メバルは古くから食用魚として親しまれ、白身は上品な甘みとほどよい弾力があります。 新鮮なものは刺身や薄造りで味わわれるほか、煮付け、塩焼き、唐揚げ、酒蒸しなどさまざまな料理に利用されます。 特に煮付けは代表的な調理法として知られ、旬のメバルを使った家庭料理や料亭料理として広く親しまれています。

毒・危険性

メバルのヒレの棘には毒は無いとされる資料もありますが、「微量にあるが、単純に刺された痛みとほぼ変わらない」という資料もあります。 詳しい研究はほとんどされていないようですが、メバルに刺されたことによる事故の報告例は見つかりません。

見上げるように浮遊したり、岩の隙間に潜むメバル 岩間にたたずむメバルの水中映像

季節によって摂餌のパターンが違うという

尺メバルと呼ばれる大型のメバル 尺メバルと呼ばれる大型のメバルの水中映像

全長30cm前後に成長し、尺メバルと呼ばれる大型個体

参考資料

  • 日本産魚類全種リスト(分類情報)
    ▶ 見る
  • JAMSTEC BISMaL(分類情報)
    ▶ 見る
  • World Register of Marine Species(分類情報)
    ▶ 見る
  • 学研の図鑑LIVE魚・学研・本村浩之総監修
    ▶ 見る
  • 原色魚類大図鑑・北隆館・阿部宗明監修
  • 1)求愛に「おしっこ」と「鳴き声」!~メバルの奇想天外な求愛行動を世界で初めて解明~
      長崎大学広報戦略本部
      長崎大学プレスリリース(2025)
    ▶ 見る
  • 2)Evaluating genetic diversity of Sebastes fishes for stock enhancement project and the development of artificial fertilization technique
      (種苗放流対象メバル類の遺伝的多様性評価と多様性維持をめざした人工授精技術の確立)
      富永 修
      科学研究費補助金研究成果報告書・基盤研究(C)、課題番号20580209(2011)
      DOI:なし
    ▶ 見る
  • 3)海水魚の体内受精魚の人工授精方法
      (海水魚の体内受精魚の人工授精方法)
      公開特許公報(特開2011-067187)
      日本国特許庁(JPO)
    ▶ 見る
  • 4)Sperm maturation, migration, and localization before and after copulation in black rockfish (Sebastes schlegelii)
      (クロソイにおける交尾前後の精子の成熟・移動・局在)
      Haixia Zhao, Xueying Wang, Tengfei Du, Guang Gao, Lele Wu, Shihong Xu, Yongshuang Xiao, Yanfeng Wang, Qinghua Liu, Jun Li
      Theriogenology, Vol.166, pp.83–89(2021)
      DOI:10.1016/j.theriogenology.2021.01.001
    ▶ 見る
  • 5)Quantitative analysis of body colouration in Sebastes rockfishes
      (メバル属魚類における体色の定量的解析)
      Diego Deville, Kentaro Kawai, Tetsuya Umino
      Marine Biology, Vol. 171, Article 123(2024)
      DOI: 10.1007/s00227-024-04436-z
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