概要
和名:キヨヒメクラゲ
英名:標準的な英名は確認されていません
学名:Kiyohimea aurita Komai & Tokioka, 1940
撮影地:静岡県沼津市 水深6m
本ページサンプル動画は1280x720/30pです
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:2分 56秒
- サイズ:856MB
分類・分布
有櫛動物門 > 有触手綱 > カブトクラゲ目 > アカダマクラゲ科 > キヨヒメクラゲ属 > キヨヒメクラゲ
国内では和歌山県白浜・田辺湾周辺や長崎県佐世保、九十九島、静岡県沼津市など。沿岸で安定して見られる種類ではなく、外洋性の浮遊生物が沿岸に現れたものと考えられ、出現記録はきわめて限られます。
特徴・雑学
一般的な"刺す"クラゲは刺胞動物ですが、キヨヒメクラゲは有櫛動物の仲間で、毒のある刺胞を持っていないため、素肌に触れても安全です。 推進力は「櫛板」の細かな動きで発生します。 刺胞動物のクラゲのように、傘を拍動させるような動きはありません。
【柔らかすぎて標本にならない】
キヨヒメクラゲは、1940年に和歌山県白浜で採取された個体をもとに記載された非常に珍しいクシクラゲです。
記載後は長く採集例が途絶え、2004年に和歌山で64年ぶりの再確認が報告されました。
その後も記録例はごく少ないうえに、体が非常に柔らかく壊れやすいため、しっかりした模式標本が残せていないことで知られます。
【大きな袖で餌を集める】
有櫛動物は刺胞動物のクラゲとは別の仲間で、刺胞ではなく粘着性の細胞で小さなプランクトンをとらえます。
キヨヒメクラゲは、おむすびの様な三角形の形をしています、頂点には三角形の突起が1対あり、そこから全体へと流れるような櫛板列が並びます。
櫛板列は泳ぐための器官ですが、一般的なクシクラゲが見かけによらず移動速度がある印象に比べると、キヨヒメクラゲは速度が極端に遅く、泳ぐのは得意ではないようです。
櫛板は点滅するように輝いて見えますが、自ら発光しているのではなく、太陽の光やカメラの照明に反射して光っているように見えます。
おにぎりの下には「袖状突起」という翼の様な器官があります。
広げたり閉じたりすることができますが、食べるためのプランクトンを集めていると考えられています。
袖状突起の内側には、耳状突起と言う小さな羽根のような器官があり、中心にある口へとプランクトンを運びます。
映像では、櫛板とは別の光り方をするように見えています。
口の奥には消化器官があり、外からも見えますが、映像の個体は、あまり胃に食べ物が無いようです。
【和歌山の清姫伝説】
キヨヒメクラゲの"キヨヒメ"は「清姫」と表記されます。
これは、「今昔物語」の巻14 第25にある「紀伊国道成寺僧写経蛇報恩語」(以下清姫伝説)に登場する、和歌山の「清姫」にちなんで名づけられたとされ、学名もKiyohimeaと清姫の名になっています。
今昔物語は、鎌倉時代の直前、約900年以上前に書かれた書物で、清姫伝説は仏教の教訓を伝える説話集です。
清姫伝説は、その後、人形浄瑠璃や能、歌舞伎などで上演され、物語の細部は時代とともに変化しました。 もともと庄司の娘とされていた人物も、後の作品では「姫」として語られることがあります。清姫伝説の概要
荘園の娘が、安珍という旅の僧侶に一目ぼれしました。 娘が告白したにもかかわらず、安珍はその想いを受け入れず、「熊野詣の帰りにまた立ち寄る」と約束して、その場を離れます。
ところがそれは娘の気持ちをかわすための口約束でした。
再びこの土地を通った僧は、娘に会うことを恐れて急いで立ち去ろうとします。
それを知った娘は怒りと悲しみのまま後を追い、日高川へたどり着きます。僧はすでに渡し船で川を越えていましたが、娘はためらうことなく川へ入り、泳いで追いかけました。 その激しい執念はやがて娘の姿を大蛇へと変えたと伝えられています。
僧は「道成寺」へ逃げ込み、寺の僧たちは梵鐘の中に彼を隠しました。 しかし、蛇となった娘は鐘に巻きつき、その怒りで鐘を焼き上げてしまいます。やがて鐘の中の僧も命を落としました。
その後、寺では怪異が続き、ある夜、住職の枕元に蛇の姿となった二人が現れる夢を見たと伝えられています。 夢の中で二人は、自分たちの怨みと執念のために苦しみ続けていることを告げ、供養を願いました。 そこで住職は二人の怨念を鎮めるため、僧たちを集めて追善供養の法要を営みます。
住職が読経と念仏を続けると、二人の霊は仏の教えに導かれ、ついに成仏したと伝えられています。
こうして人情物語として広く語り継がれ、現代では海の生物の名前にも残されています。 優雅に広がる袖状の突起が、蛇となって梵鐘に巻き付いた清姫の姿、あるいは、僧を追いかける際にひるがえる着物の袖を思わせたことが、その名の由来なのかもしれません。
海の生物の和名には、このように古い伝説や物語に由来するものが少なくありません。 キヨヒメクラゲという名もまた、日本の説話文化と海の生き物の形が結びついた、興味深い例と言えるでしょう。
食・利用
食用や漁業利用の対象ではありません。
毒・危険性
キヨヒメクラゲは刺胞動物のクラゲではなく有櫛動物であり、刺胞毒で人を刺すことはありません。
摂餌時に変形するツノクラゲ(有櫛動物)
高速で泳ぐシンカイウリクラゲ(有櫛動物)
ヴィーナスの腰紐と呼ばれるオビクラゲ(有櫛動物)
参考資料
- JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - キヨヒメクラゲ
公益財団法人 黒潮生物研究所
▶ 見る - 清姫水母 えのすいトリーター日誌
新江ノ島水族館(2022)
▶ 見る - キヨヒメクラゲ(有触手綱,カブトクラゲ目,キヨヒメクラゲ科)の第二番目の記録
久保田 信・秋山 仁・山崎 悠介
日本生物地理学会会報 No.63 pp.129-131(2008)
▶ 読む - わが国で確認されたキヨヒメクラゲ(有触手綱,カブトクラゲ目,キヨヒメクラゲ科)の飼育と観察および最大個体について
秋山 仁・堀之内 詩織・山崎 悠介・辻田 明子・久保田 信
日本生物地理学会会報 No.65 pp.129-134(2010)
▶ 読む - 和歌山県白浜町で72年ぶりに採取された稀少種アカダマクラゲ(有櫛動物門,カブトクラゲ目,アカダマクラゲ科)
久保田 信
日本生物地理学会会報 No.67 pp.219-222(2012)
▶ 読む -
安珍と清姫の物語
天音山 道成寺
▶ 見る