ヒラメ

待ち伏せるハンター

Paralichthys olivaceus

ヒラメは海底近くに生息する日本を代表する大型の肉食魚です。 普段は海底に身を伏せて生活していますが、泳ぐ姿を見ると左側を上にした独特の体勢であることがよく分かります。 「海底で動かない平らな魚」という印象とは異なり、大きな口と鋭い歯を備えた優れたハンターです。

🔬 専門資料・出典引用(15件)

概要

和名:ヒラメ

英名:Japanese flounder,Olive flounder

学名:Paralichthys olivaceus (Temminck & Schlegel, 1846)

提供映像(サンプル映像は低画質版です)

分類・分布

【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > カレイ目 > ヒラメ科 > ヒラメ属 > ヒラメ

【分布】千島列島から九州、シナ海。

特徴・雑学

ヒラメは日本沿岸の浅い砂泥底に生息する大型の肉食魚で、体は左右に平たく、両眼が体の片側(通常は左側)に寄っています。 一般的に海底に身をひそめて獲物を待ち伏せすることで知られていますが、遠くから高速で泳いで捕食する姿も観察されています。

生まれたてのヒラメは、普通に泳ぐ魚・・・

孵化した稚魚は、一般的な魚と同じように左右対称の姿で泳いでいますが、標準体長約10.5 mmになると変態が始まり、右目が頭の上を通って左側へ移動します(1)。 その後は左側を上にして海底で生活するようになります。

普通の魚とは異なり、体を横たえて生活するため、左右という表現だけではどちらの面を指すのか分かりにくくなります。 そのため、生物学では目のある側を「有眼側」、目のない側を「無眼側」と呼びます。

左側へ移動するのは右目だけであり、右胸鰭や右鰓蓋は無眼側に残ります。 目以外の基本的な体のつくりは普通の魚と変わりません。

「左ヒラメ、右カレイ」と言いますが、これはヒラメでは右目が左側へ移動し、左側が有眼側になることを指します。 ただし、ヒラメを含むカレイ目の魚にもごく稀に例外があり、ヒラメでは左目が右側へ移動して右側が有眼側となる「右ヒラメ」が確認されています。
この現象は発生過程で左右が逆転したものと考えられていますが、その詳しい仕組みは現在も明らかになっていません。

ヒラメの「自動カムフラージュ」機能

有眼側には色素胞が発達しており、周囲の環境に合わせて体色や模様を変化させることができます(2)。 これは、睡眠時や興奮時などの生理的な体色変化と同様に色素胞が制御される現象ですが、ヒラメでは海底の砂や岩、海藻などを目で見た情報をもとに、神経系や内分泌系が色素胞を制御することで、背景に合わせた体色変化を行います(3)。
周囲の明るさや模様に応じて色素胞が拡大・収縮することで、体色や模様はわずか数秒で変化し、海底の背景へ巧みに溶け込みます。

この優れたカムフラージュ能力は、獲物への待ち伏せや外敵から身を守ることに役立っています。 また、このような体色変化が見られるのは主に有眼側であり、海底に接する無眼側は白色のままで、ほとんど変化しません。

20年以上生きる? 長寿な魚、ヒラメ

ヒラメの寿命は、資料によって「15年程度」から「20年以上」まで幅があります。 しかし、野生生物の寿命を正確に知ることは容易ではありません。

魚の年齢は主に耳石に刻まれた年輪状の構造を調べて推定されますが、実際に年齢査定できるのは捕獲された個体に限られます。 研究者が調べられるのは自然界にいるヒラメのごく一部であり、すべての個体を調査できるわけではありません。 そのため、「これがヒラメの最高齢である」と断定することは困難です。

また、野生のヒラメは病気や寄生虫、捕食、漁獲、事故や環境変化など、さまざまな要因によって寿命を迎える前に死亡する場合があります。 自然界で実際にどこまで生きられる能力を持っているのかを直接確かめることは難しく、寿命の推定には常に不確実性が伴います。

これまでの研究では、耳石の年齢査定によって10歳を超える個体が多数確認されており、18歳の個体が報告された例もあります(4)。 一方で、資源研究では雌で20年以上生きる可能性も指摘されています(5)。 こうしたことから、ヒラメは数年で一生を終える魚ではなく、条件が良ければ10年以上、場合によっては20年近く生きる長寿の魚と考えられています。

全長120cmほどの巨大ヒラメ 120mほどと思われるヒラメの水中映像。100cmを超えるヒラメは稀で、15歳ほどと思われる

15歳以上の可能性がある

ヒラメの養殖と種苗放流

ヒラメは日本を代表する養殖魚であり、栽培漁業の対象種としても重要な存在です。 1960年代には人工ふ化や種苗生産の技術が確立され、その後の研究によって安定した生産が可能となりました。 人工飼育したヒラメを親魚として利用することも可能ではあるものの、種苗の品質や遺伝的多様性を維持するため、多くの場合は海で捕獲した親魚から採卵が行われます(6)。 孵化した稚魚は、食用として市場へ出荷されるまで育てられるほか(7)、資源を増やすための種苗として各地の沿岸へ放流されます(8)。
ヒラメは日本の栽培漁業を代表する魚種の一つであり、放流された稚魚の一部は海で成長して漁獲対象となります。 養殖は食用魚の安定供給を支え、種苗放流は沿岸のヒラメ資源を維持・増殖するための取り組みとして行われています。

ヒラメの地方名

ヒラメには全国各地でさまざまな地方名が知られており、それだけ古くから各地で利用され、人々の生活に深く関わってきた魚であることがうかがえます。

食・利用

ヒラメは日本を代表する高級魚のひとつで、古くから刺身や寿司種として親しまれてきました。 江戸時代の料理書『古今料理集』では、マダイを筆頭に、ヒラメやスズキが上魚として扱われており、現在では高級魚とされるマグロやブリは下魚に分類されています(9)。 魚の評価は時代とともに変化してきましたが、ヒラメは昔も今も高級魚として高く評価され続けています。

「鯛や平目が舞い踊る」ごちそうの代表魚

ヒラメは日本を代表する白身魚のひとつで、現在では刺身や寿司種として広く利用されています。
特に活魚流通や冷蔵技術が発達した現代では、ヒラメ本来の食感や風味を生かした刺身や薄造りが人気です。 背びれ・尻びれの付け根にある「縁側」も、独特の食感を持つ部位として親しまれています。

また、ヒラメは昆布締めとして利用されることもあります。 昆布締めは魚を昆布で挟み、保存性を高めるとともに、昆布の旨味を移す調理法です。 冷蔵技術が普及する以前から行われてきた方法で、特に北陸地方では昆布を利用した食文化が発達しており、ヒラメを含む白身魚の昆布締めが親しまれています。

このほか、煮付け、唐揚げ、ムニエルなどにも利用されます。 刺身や薄造りに使用した後の頭や中骨は、潮汁や味噌汁などに利用されることもあります。 現在では天然魚と養殖魚の両方が流通しており、日本各地で様々な料理に利用されています。

毒・危険性

人に対する毒性や危険性はありません。

ヒラメが待ち伏せから捕食する瞬間の映像 ヒラメが、頭上の群れに向かって飛び上がるように捕食する瞬間をとらえた希少映像

飛び上がる前に体を波打たせている

ヒラメが泳いで捕食する瞬間の映像 ベラの産卵に突っ込んで泳いできて捕食するヒラメ

遠くから泳いで来て捕食している

ヒラメの求愛行動 ヒラメの雄は、大きな雌の体に顎をのせるように寄り添い、背鰭を震わせるようにする

小さな雄が、大きな雌に寄り添って背ビレを震わせる

参考資料

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