海底のトーンに体色を合わせてカムフラージュし、真上に来る獲物を待ち構える。 というイメージのあるヒラメですが、待ち伏せしないハンティングもあるようです。 映像では、産卵中のベラの群れに、遠くから泳いで来て突っ込むように捕食しています。 速すぎてどこから来ているのかがわかりにくいのですが、youtube版ではスローで解説しています。
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Paralichthys olivaceus
海底のトーンに体色を合わせてカムフラージュし、真上に来る獲物を待ち構える。 というイメージのあるヒラメですが、待ち伏せしないハンティングもあるようです。 映像では、産卵中のベラの群れに、遠くから泳いで来て突っ込むように捕食しています。 速すぎてどこから来ているのかがわかりにくいのですが、youtube版ではスローで解説しています。
獲物の匂い?
花火が打ちあがるようなベラの産卵を見ていると、何かが突き上げるように突っ込んできました。 「え?何?」と、物体が着地した岩を見ると、ヒラメでした。 当初は、岩に潜んでいたのに気づかなかったのだろう。と思っていましたが、映像をよく見ると、かなり遠い所から泳いで来て、そのまま群れに突っ込んでいます。 かなり遠くから泳いで来ているので、目視ではなく、放精放卵の匂いに誘われたのではないかと思いますが、定かではありません。
概要
和名:ヒラメ
英名:Japanese flounder,Olive flounder
学名:Paralichthys olivaceus (Temminck & Schlegel, 1846)
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
分類・分布
【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > カレイ目 > ヒラメ科 > ヒラメ属 > ヒラメ
【分布】千島列島から九州、シナ海。
特徴・雑学
ヒラメは日本沿岸の浅い砂泥底に生息する大型の肉食魚で、体は左右に平たく、両眼が体の片側(通常は左側)に寄っています。 一般的に海底に身をひそめて獲物を待ち伏せすることで知られていますが、遠くから高速で泳いで捕食する姿も観察されています。
飛び上がる前に体を波打たせている
まわりの風景に溶け込む・ヒラメの「土遁の術」
有眼側には色素胞が発達しており、周囲の環境に合わせて体色や模様を変化させることができます(1)。 これは、睡眠時や興奮時などの生理的な体色変化と同様に色素胞が制御される現象ですが、ヒラメでは海底の砂や岩、海藻などを目で見た情報をもとに、神経系や内分泌系が色素胞を制御することで、背景に合わせた体色変化を行います(2)。
周囲の明るさや模様に応じて色素胞が拡大・収縮することで、体色や模様はわずか数秒で変化し、海底の背景へ巧みに溶け込みます。
砂地でカムフラージュするヒラメ
▲ 荒い貝殻質の砂地に隠れる
▲ 体色も粗めの白黒になっている
色を判別する・意外と高いヒラメの視覚能力
ヒラメの視覚については、近年になって研究が進みつつあります。 海底で獲物を待ち伏せする魚ですが、目の前に来た物だけが見えるわけではありません。
むしろ、浮遊生活をする稚魚期よりも、海底で伏せて生活する成魚の方が高い視力を持つことが知られています(3)。
ヒラメの、周囲の環境に合わせて体色を変化させる能力からも分かるように、彼らは色彩情報を認識しています。 近年の研究では、背景色によって餌への反応が変化することが示されており、ヒラメは色の違いを識別していると考えられています。
赤や黄色という色を人間と同じように認識しているかどうかは分かっていませんが、少なくとも色の違いを判別して捕食行動に利用していることは確かなようです。 特に背景とのコントラストが高い餌ほど反応が良く、視覚は待ち伏せ型捕食者であるヒラメにとって、重要な感覚の一つであることが明らかになっています(4)。
頭上全体が見えていると思われ、どの角度からでも隙は無い
魚の嗅ぐ能力・海中は「匂いの世界」
ヒラメの嗅覚そのものを詳しく調べた研究はまだ多くありません。 しかし魚類全般では、嗅覚は非常に重要な感覚として知られています。
陸上で肺呼吸をする動物が匂いを嗅ぐときは、左右一つずつの穴から「クンクン」と空気を出し入れしますが、肺呼吸をしない魚類では、水の入口と出口のあるトンネル状の鼻に常に海水を通すことで匂いを嗅ぎ続けます。
また、空気中の匂い物質を鼻腔内の粘液に溶けこませて検知する陸上動物に対し、水中では溶け込んだ化学物質そのものが受容器へ運ばれてきます。 「匂いを嗅ぐ」という行為は、圧倒的に水中が適しており、海洋生物のほうが陸上動物よりも有利です。
トンネル状になっており、常に匂いを嗅ぎ続けることができる
匂いはシグナル・出す、嗅ぐ、魚たち
魚類の嗅覚研究では、アミノ酸が特に重要な嗅覚刺激であることが明らかになっています。 わずかな濃度のアミノ酸に対しても反応を示す魚種が知られており、ごく微量なアミノ酸だけで摂餌行動が誘発される例も報告されています。 魚は餌そのものを見る前に、水中へ溶け出したアミノ酸などの化学物質を手掛かりとして利用しているのです。
魚類の精液や卵にはアミノ酸やペプチドなどの化学物質が多く含まれています。 さらに、魚類では繁殖に関わる化学シグナルを嗅覚によって感知することも知られており、放卵・放精時には周囲の魚へ様々な情報が伝達されていると考えられています(5)。 映像では、ヒラメがベラ類の産卵を狙って卵を捕食する様子が観察されていますが、どのような感覚で産卵を察知しているのかはまだ分かっていません。
しかし、魚類の優れた化学感覚を考えると、放卵・放精によって水中へ放出されたアミノ酸やその他の化学物質を手掛かりにしている可能性も十分考えられます。 視覚だけでなく嗅覚も利用しながら、海底で効率よく餌を探しているのかもしれません。
放精放卵のタイミングでメジナが近づき、オオモンハタも現れる
食・利用
ヒラメは日本を代表する高級魚のひとつで、古くから刺身や寿司種として親しまれてきました。 江戸時代の料理書『古今料理集』では、マダイを筆頭に、ヒラメやスズキが上魚として扱われており、現在では高級魚とされるマグロやブリは下魚に分類されています(6)。 魚の評価は時代とともに変化してきましたが、ヒラメは昔も今も高級魚として高く評価され続けています。
毒・危険性
人に対する毒、危険性はありません。
小さな雄が、大きな雌に寄り添って背ビレを震わせる
養殖や地方名なども紹介
参考資料
▶ 見る
▶ 見る
▶ 見る
(変化するカムフラージュ:ヒラメ類は自然環境の基質の色と空間スケールにどの程度似ることができるのか)
Derya Akkaynak, Lindsey A. Siemann, Alexandra Barbosa, Lydia M. Mäthger
Royal Society Open Science 4:160824(2017)
DOI:10.1098/rsos.160824
▶ 見る
(魚類色素胞における運動活性の制御)
Ryozo Fujii
Pigment Cell Research 13(5):300-319(2000)
DOI:10.1034/j.1600-0749.2000.130502.x
▶ 見る
(ヒラメの成長に伴う網膜構造および視力の発達)
Xiu-Mei Zhang, Masaru Aoyama, Shigeru Ishibashi, Atsushi Okamoto
Fisheries Science 66(4)(2000)
DOI: 10.1046/j.1444-2906.2000.00085.x
▶ 見る
(異なる背景色におけるヒラメ若魚の餌色選択性)
髙瀬 清美,北山 瑛人,角田 出
日本海水学会誌 79巻3号(2025)
DOI: 10.11457/swsj.79.3_173
▶ 見る
(魚類の嗅覚と味覚:概説)
Toshiaki J. Hara
Acta Physiologica Scandinavica 152, 207-217(1994)
DOI: 10.1111/j.1748-1716.1994.tb09800.x
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「本の万華鏡」第30回
国立国会図書館
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