概要
和名:ウスバハギ
英名:Unicorn Leatherjacket / Unicorn Filefish
学名:Aluterus monoceros (Linnaeus, 1758)
「毒を持つソウシハギに、毒のないウスバハギが姿を似せているように見えます。」
11月、晩秋の伊豆で撮影しました。水面には多くの流木が漂い、様々な種類の稚魚や若魚が寄り添っていました。
その中で出会ったのが、ハギの仲間であるウスバハギとソウシハギの幼魚です。
両種は幼魚期に同じ環境で暮らしますが、単なる同居ではなく、ウスバハギがソウシハギを利用して行動している可能性があります。
この映像は、ウスバハギが「ベイツ型擬態」による防御戦略を示していると考えられます。
- 撮影場所:静岡県伊東市川奈(若魚)、沼津市大瀬崎(成魚)
- 撮影時期:10月(若魚)、12月(成魚)
- 主な水深:1m~5m
- 映像特徴:ウスバハギ若魚のベイツ型擬態と思われる体色変化
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:1 分 25 秒
- サイズ:416MB
分類・分布
【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > フグ目 > カワハギ科 > ウスバハギ属 > ウスバハギ
【分布】本州中部以南、世界各地の温帯、熱帯域。
特徴・雑学
ウスバハギは、外洋性のカワハギの仲間です。 幼魚期は海面近くの流れ藻や漂流物、クラゲなどに寄り添い、外敵から身を隠すように暮らします(1)。 やがて成長すると漂流物から離れ、沿岸から沖合にかけて、単独または小さな群れでゆったりと遊泳します。 食性は幅広く、底生の無脊椎動物やクラゲ、動物プランクトン、小型の魚類などを捕食します。
【地魚としてのウスバハギ】
岸近くでも40~50cmほどの個体が見られることは珍しくなく、メジナ釣りなど目的を持った釣りでは「外道」として扱われることが多いようです(2)。
食用魚として全国的に流通する魚ではなく、ウスバハギを対象とした漁業も行われていませんが、紀伊半島や伊豆半島、房総半島などでは、ごく普通に食用とされています。
【ウスバハギ幼魚はベイツ型擬態か】
撮影時、水面の流木にはさまざまな種類の稚魚、若魚が集まっている様子が観察されました。
全長50~100mmほどのソウシハギも多数密集していましたが、大きな個体ほど密集しない傾向が見られました。
本映像で撮影したのは、密集せずにやや離れていた大きめの個体(100mm~150mm)で、当初は2尾ともソウシハギだと思っていたものです。
しかし後から確認すると、映像左側の個体はウスバハギであり、体色がソウシハギに似るように「変化している」様子が見られました(3)。
最初は無地だった体色ですが、カメラを持ったダイバーが少しずつ近づくのに警戒したのか、隣のソウシハギと同じような体色になります。
ソウシハギはパリトキシン様毒を蓄積する魚であり、
この現象は、毒を持つ魚に似せて身を守る「ベイツ型擬態」である可能性が考えられます(4)。
ウスバハギの成魚は、尾鰭後端の形状や長く伸びる背鰭第1棘など、他のカワハギ科と区別しやすい独特の形態を持ちます。
しかし幼魚期にはそのような特徴はほとんど見られず、容易には見分けることができません(5)。
体色を毒のあるソウシハギに似せるベイツ型擬態であるとすれば、幼魚期の形態が他のカワハギ科と大きく変わらないことも、自然な戦略として理解できます。
毒を持つシマキンチャクフグと、ベイツ型擬態しているとされるノコギリハギ
▲ シマキンチャクフグ(60mm)
▲ ノコギリハギ(15mm)
コロダイの幼魚期は毒棘のあるゴンズイの模様をしている
【アマゾンでの気付き】
19世紀、資金も名誉もない若きヘンリー・ウォルター・ベイツ(Henry Walter Bates)は、アマゾンでの11年に及ぶ過酷な調査の末、無毒のチョウが有毒種の紋様を模倣して捕食者を欺く生存戦略を見出しました。
この発見は、帰国後の1862年に論文『Contributions to an Insect Fauna of the Amazon Valley (Lepidoptera: Heliconidae)』(6)として発表され、ダーウィンの進化論を補強する実証的証拠として高く評価されます。
翌年には、その冒険の記録を綴った『アマゾン川の博物学者』(7)を出版。この本は当時の大ベストセラーとなり、今なお博物学の古典として愛されています。
かつて一人の探検家が泥にまみれて抱いた「小さな違和感」は、現在「ベイツ型擬態」という名で、生命の神秘を解き明かす普遍的な概念として輝き続けています。
食・利用
ウスバハギは白身でクセが少なく、さっぱりとした味わいの魚です。
身はやや水分が多く、そのままでは淡白ですが、調理によって食べやすくなります。
新鮮なものは刺身で食べることができ、肝を醤油に溶いて合わせると、ほどよいコクが加わります。
特に寒い時期は肝が発達し、味に深みが出るとされています。
また、天ぷらやフライ、鍋などにも利用され、加熱すると身がやわらかく仕上がります。
アラからもだしが出るため、汁物にも向いています(8.9)。
地域によっては一般的な食用魚として扱われ、日常的に楽しまれている魚のひとつです。
毒・危険性
温暖な海域に生息する大型個体では、シガテラ毒を蓄積している可能性があります(10)。
成魚は特徴的な姿になる
食物由来の蓄積毒なので無毒のソウシハギも多い
毒を持つシマキンチャクフグとそっくりな模様
参考資料
- 日本産魚類全種リスト(分類情報)
▶ 見る - JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 学研の図鑑LIVE魚・学研・本村浩之総監修
- 原色魚類大図鑑・北隆館・阿部宗明監修
- 1)底魚類は初期生息場所として流れ藻をどのように利用しているか(PDF)
木村清志 ほか
水産工学研究所技報,第17巻第2号,67-89(2025)
DOI:なし
▶ 見る - 2)ウスバハギの肝醤油は絶品!?釣り方と仕掛けを解説!
TSURI HACK(釣りハック)
TSURI HACK編集部
▶ 見る - 3)ウスバハギ
魚類写真資料データベース
国立科学博物館/神奈川県立生命の星・地球博物館
▶ 見る - 4)生き物たちの仮装!?
市立しものせき水族館「海響館」
下関市立しものせき水族館 海響館
▶ 見る - 5)Development of fishes of the Mid-Atlantic Bight. An atlas of egg, larval and juvenile stages. VI.
Stromateidae through Ogcocephalidae(PDF 256ページ)
(中部大西洋湾における魚類の発生:卵・仔魚・稚魚段階の図鑑 第6巻(イボダイ科からアカグツ科まで))
Martin, F.D. and Drewry, G.E.
U.S. Fish and Wildlife Service, Biological Services Program FWS/OBS-78/12(1978年)
DOI:なし
▶ 見る - 6)Contributions to an Insect Fauna of the Amazon Valley (Lepidoptera: Heliconidae)
(アマゾン渓谷の昆虫相に関する研究(チョウ目:ヘリコニウスチョウ類))
Henry Walter Bates
Transactions of the Linnean Society of London(1862)
DOI:10.5962/bhl.title.9486
▶ 見る - 7)完訳 アマゾン河の博物学者
平凡社(書籍紹介ページ)
株式会社平凡社
▶ 見る - 8)ウスバハギ:目利きと料理
旬の食材図鑑
株式会社フーズリンク
▶ 見る - 9)ウスバハギの唐揚げ
魚介メニュー
マックスバリュ東海株式会社
▶ 見る - 10)シガテラ
食中毒関連
沖縄県 保健医療介護部 衛生環境研究所
▶ 見る