概要
和名:ノコギリハギ
英名:Blacksaddle filefish
学名:Paraluteres prionurus (Bleeker, 1851)
ノコギリハギは、猛毒をもつシマキンチャクフグに姿を似せることで外敵を避ける「ベイツ型擬態」の代表例として知られています。
人間でも見間違えるほどよく似ており、捕食者に「危険な魚」と誤認させるには完璧な擬態です。
ここまで完璧でなくとも、自然界にはベイツ型擬態がたくさん存在し、私たちは気づかないうちに見ています。
もしかしたら、危険だと思って避けているかもしれません。
- 撮影場所:静岡県伊東市赤沢
- 撮影時期:9月
- 主な水深:25m
- 映像特徴:「ベイツ型擬態」とされるノコギリハギ
提供映像(サンプル映像はYouTubeです)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
分類・分布
【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > フグ目 > カワハギ科 > ノコギリハギ属 > ノコギリハギ
【分布】南日本、伊豆諸島、小笠原諸島、琉球列島
特徴・雑学
ノコギリハギは、細長くやや側扁した体と小さな口をもつカワハギの仲間で、主にサンゴ礁や岩礁域、流れ藻の周辺などに生息しています。 暖かい海を好み、沿岸の浅場で見られることが多く、単独または小規模な群れで行動する姿が観察されます。
【有毒だと思わせる戦略】
ノコギリハギの大きな特徴は、猛毒をもつシマキンチャクフグに酷似した体色と模様です。
黒と黄色のコントラストや体形のバランスまでよく似ており、一見しただけでは両者を見分けることは容易ではありません。
しかし、ノコギリハギ自体には毒はなく、酷似した外見は外敵から身を守るための戦略と考えられています。
これは「ベイツ型擬態」と呼ばれる現象で、無毒の生物が有毒種に似ることで捕食者に警戒心を与え、攻撃を回避する仕組みです。
【独学の探検家】
「ベイツ型擬態」という言葉は、19世紀イギリスの博物学者ヘンリー・ウォルター・ベイツ(Henry Walter Bates)に由来します。
1848年、地位も名誉も、十分な資金すら持たなかった若きベイツは、片道切符で南米アマゾンへと飛び込みました。
以来11年もの間、彼はマラリアや飢えに苦しみ、裸足で泥をかき分けながら、1万4千種を超える膨大な昆虫の調査を続けます。
その過酷な日々の中で、彼はある「小さな違和感」を抱きます。
「なぜ、食べればおいしいはずの無毒のチョウが、鳥が嫌がる猛毒のチョウと、見分けがつかないほどそっくりの模様を纏っているのか?」
最初は偶然の一致にすぎないと思われたその疑問は、何千回という観察を経て、一つの確信へと変わりました。
「無害な者が、有害な者の『看板』を盗んでいるのではないか」ーー。
実際に、鳥などの捕食者は一度有毒種を食べて不快な経験をすると、同じ模様を持つ個体を避けるようになります。
ベイツは、無毒種が有毒種に姿を似せることで、命を繋ぐ切符を手に入れているという生存戦略を見抜いたのです。
この発見は、帰国後の1862年に論文(1)として発表され、ダーウィンの進化論を支える決定的な証拠として絶賛されました。
かつてアマゾンの奥地で、一人の無名な若者が抱いたささやかな疑問は、現在では「ベイツ型擬態」として、昆虫から魚類、爬虫類に至るまで、
生命の多様性を解き明かす普遍的な概念として知られています。
論文発表の翌年、チャールズ・ダーウィンの後押しにより、冒険記『アマゾン川の博物学者』を出版します(2)。 当時の大ベストセラーになり、現代でも「博物学の古典」として世界中で読み継がれています。
食・利用
食用としては利用されません。
毒・危険性
ノコギリハギに毒性はありません。
参考資料
- 日本産魚類全種リスト(分類情報)
▶ 見る - JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 学研の図鑑LIVE魚・学研・本村浩之総監修
- 原色魚類大図鑑・北隆館・阿部宗明監修
- 1)Contributions to an Insect Fauna of the Amazon Valley (Lepidoptera: Heliconidae)
(アマゾン渓谷の昆虫相に関する研究(チョウ目:ヘリコニウスチョウ類))
Henry Walter Bates
Transactions of the Linnean Society of London(1862)
DOI:10.5962/bhl.title.9486
▶ 見る - 2)完訳 アマゾン河の博物学者
平凡社(書籍紹介ページ)
株式会社平凡社
▶ 見る