タキゲンロクダイ幼魚

捕食者を騙す偽りの眼

Coradion altivelis

概要

和名:タキゲンロクダイ(幼魚)

英名:Highfin coralfish(juvenile)

学名:Coradion altivelis McCulloch, 1916

撮影地:静岡県伊東市 水深25m

提供映像(サンプル映像は1280x720.30pです)

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > チョウチョウウオ科 > タキゲンロクダイ属 > タキゲンロクダイ

相模湾以南、西太平洋、水深20m~30m付近の岩礁を2~3尾で泳ぎます。

特徴・雑学

タキゲンロクダイは、白地に濃い茶色〜金色の幅広い縦帯が入るチョウチョウウオ科の一種で、細長い吻と高く伸びる背びれが特徴的です。
沿岸の岩礁やサンゴ礁の斜面に生息し、大きな群れをつくらずに1尾~2尾程度で岩肌やサンゴ表面をついばみながら生活しています。 雑食性で、底生の無脊椎動物を好んで食べるとされ、細い吻は岩のすき間から餌をついばむのに適応しています。

映像は、背びれの眼状紋が目立つ幼魚です。 細かく前進と停止を繰り返しながら、岩礁を行き来する姿が記録されています。

 

【眼状紋で欺く】
幼魚の背びれには、黒い斑点を白い輪が縁取った大きな「眼状紋(ocellus)」があり、本物の眼のように見えます。 一方で、頭部の本当の眼には暗色の帯が走っており、あまり目立ちません。 本物の眼を目立たなくすることで、捕食者の視線を体の後方へと誘導していると考えられています(*1)。

魚類には、ある程度の自己修復能力が備わっていることが知られています(*2)。 鱗や皮膚、血管、さらにはヒレなど、体の末端に近い部分は、条件が整えば、失われたあとでも再生する場合があります。
一方で、脳や眼を含む頭部のように、生命の維持に深く関わる重要な部位については、基本的に再生できないと考えられています。
このような再生能力の違いを踏まえると、捕食者の攻撃を致命的になりやすい頭部から遠ざけ、再生が期待できる、眼状紋のある背鰭や尾の付け根などへと向けさせることは、生存率を高めるための合理的な戦略であると言えます。

このような眼状紋(偽りの眼)は、多くの魚類において、幼魚の時期に見られる防御戦略です。 遊泳力や逃避能力がまだ未熟な幼魚が、たとえ捕食者に襲われたとしても、眼状紋によって最初の一撃をそらすことで生存率を高めていると考えられています。
一方で、成長して機動力が向上した成魚になると眼状紋は目立たなくなり、やがて見られなくなることが多くあります。

 

参考動画:体の中心に眼状紋を持つマトウダイ

【敵に的を絞らせない】
本映像では、タキゲンロクダイが急激な加速と減速を繰り返す遊泳を行っており、撮影が追いついていない場面が見られます。 これは、「バースト・アンド・コースト遊泳(burst-and-coast swimming)」と呼ばれる、捕食者からの回避行動に利用される遊泳様式である可能性があります(*3)。
前進と停止を断続的に繰り返すことで、捕食者は襲いかかるタイミングを定めにくくなります。 さらに、急に向きを変えるなど、進行方向を大きく変化させることで、被食を回避できる可能性はより高まると考えられます。 また、長距離を逃げることなく、テリトリーや採餌場所から大きく離れずに済む点も、この行動の利点のひとつかもしれません(*4)。

このような泳ぎ方をする魚の撮影は非常に難しく、映像でも捉えきれていません。 もしこの動きが捕食者に襲いかかるタイミングを与えないための戦略だとすれば、極めて効果的な方法と言えるでしょう。

参考動画:小刻みに泳ぐキツネアマダイの幼魚

▶ キツネアマダイ幼魚の詳細ページを見る

食・利用

タキゲンロクダイは定置網や刺し網で漁獲されることはありますが、市場に流通することはほとんどありません。

毒・危険性

毒性の報告はありません。

参考資料

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