卵胎生のオキタナゴは、初夏になると沖合に面した斜面に集まり、集団で「出産」をします。 お腹から出てくる子供は、生まれた瞬間から親と同じ形をしており、自由に泳ぐことができます。 出産する雌は、生まれてくる仔タナゴが群れになるように、一定の場所で出産する行動が見られます。
概要
和名:オキタナゴ
英名:Silver seaperch
学名:Neoditrema ransonneti Steindachner, 1883
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:5月中旬~6月初旬(2013~2016)
- 主な水深:5m~12m
- 映像特徴:オキタナゴのメスの群れ、出産シーン
提供映像(サンプル映像はYouTube版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:------
- サイズ:------
分類・分布
【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > ウミタナゴ科 > オキタナゴ属 > オキタナゴ
【分布】北海道以南の日本沿岸、朝鮮半島南部
特徴・雑学
オキタナゴは、内湾や藻場に生息する小型の魚で、側扁した銀白色の体をしています。
背側がやや濃くなることで、水中では輪郭がぼやけ、周囲の景色に溶け込むような姿に見えます。
ウミタナゴ類と比べると口は小さく、やや前方へ突き出した形をしており、海底近くよりも中層を泳ぐ傾向が見られます。
主にプランクトンや小型の甲殻類を、ついばむようにして食べる魚です。
へその緒は無い・母からの栄養はヒレで受けとる
オキタナゴは秋に交尾を行い、メスは取り込んだ精子を体内に保持したまま冬を迎えます。
やがて体内で受精が起こり、卵は卵巣内で孵化します。孵化直後の仔魚はまだ未発達ですが、卵巣内で成長を続けます。
卵巣が子宮のような役割をしますが、哺乳類のように「へその緒」では繋がっておらず、内部は酸素と栄養を含む「卵巣液」で満たされます(1)。
成長に伴い、仔魚は鰭条間膜(きじょうかんまく)と呼ばれるヒレの膜を大きく発達させます。
この膜には毛細血管が密に張り巡らされており、ここを通じて卵巣液中に含まれる酸素や栄養分を吸収します。
オキタナゴは卵黄だけに頼るのではなく、母体から追加の栄養を受け取りながら成長する「マトロトロフィー型(matrotrophy)」の繁殖様式をもつ魚です(2)。
出産を控えたオキタナゴの雌の群れ
▲ 出産時には群れから離れる
なお、同じく体内で仔を育てる魚でも、サメやエイの一部では「子宮ミルク(ヒストトロフ/histotroph)」と呼ばれる栄養豊富な分泌物を母体が供給し、胚がそれを取り込むという仕組みが知られています。 オキタナゴの場合はこれとは異なり、卵巣液を介して体表から吸収するという、また別の形で母体とつながる卵胎生の魚です。
お腹が動いているのが見える
生まれた瞬間群れにする・母タナゴの出産戦略
産まれたばかりの仔魚は、すでに成魚に近い形態を持ち、自力で泳ぐことができます。
とはいえ、小さいうちは捕食者に狙われやすく、危険が伴います。
そこで、生まれた直後から群れとなり、捕食者から身を守れるよう、妊婦たちは集まって出産すると考えられています。
この映像では、妊娠した雌だけが群れになり、出産する直前に仔魚が群れる場所へ移動して、わが子を群れに混ぜるように出産しています。
成魚と仔魚は混ざることは無く、仔魚の群れは次第に大きくなります。
出産時に腹部が破れたように見える個体を見かけますが、損傷が大きい場合は死んでしまう個体もあります。 ただ、あきらかに腹部が損傷して死んでいる個体を見ることは稀で、ある程度の損傷は自己修復するものと思われます。
出産中のオキタナゴ
▲ 通常は尾から産まれる
▲ 腹が破れてしまう場合もある
食・利用
地域によっては食用にされますが、まとまって流通することはありません。旬は晩秋とされることがあります。
タナゴを食べると安産?難産?・魚にまつわる各地の風習
ウミタナゴ属の出生時は尾から出てくることが多く、島根県では「逆子になる」として妊婦は食べない方が良い。という風習があります(3)。
一方、次々と子供が生まれてくる様子からか、寛文7年(1667年)に書かれた『食物和歌本草増補』には「たなごこそ懐妊の薬朝夕に食して其子難産もなし」
(タナゴこそ妊娠の薬である、朝夕に食べれば子供は難産にならない)とあります(4)。
東北地方では「安産に良い」として妊婦に食べさせた方が良い魚として珍重されます。
こうした民俗的な言い伝えは、身近な沿岸魚が人々の暮らしと結びついてきたことを示す一例です。
毒・危険性
オキタナゴに毒性はありません。
オキタナゴのように出産の観察は容易ではない
海中で種類の判断は難しい
マタナゴ水中映像
参考資料
- 日本産魚類全種リスト(分類情報)
▶ 見る - JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 学研の図鑑LIVE魚・学研・本村浩之総監修
- 原色魚類大図鑑・北隆館・阿部宗明監修
- 1)Viviparity: The Maternal-Fetal Relationship in Fishes
(魚類における胎生 ― 母体と胎仔の関係)
John P. Wourms
American Zoologist, Volume 21, Issue 2, Pages 473–515, May 1981, Oxford University Press.
▶ 見る - 2)ウミタナゴの研究―III
(ウミタナゴの卵巣の成熟並びに季節的循環に関する研究)
水江 一弘
長崎大学水産学部研究報告(1961)
DOI:
▶ 見る - 3)郷土の海産物No.8 55ウミタナゴ
伊藤十治
福井市立郷土自然科学博物館研究報告 第1号(1985)
▶ 見る - 4)食物和歌本草増補 種魚・タナゴ(寛文7年・1667)
山岡 元隣
東京大学駒場図書館 資源科学研究所 本草書コレクション
▶ 見る
消えた初夏の風物詩
初夏。伊豆半島では真冬の海水温が少し上がり始めるころになると、海岸沿いのやや斜面になっている場所に、オキタナゴの群れが見られます。 お腹がパンパンになった雌の群れは玉のようにかたまって群れになり、出産の準備をしているようです。
やがて、まさに出産!という雌が群れを離れると、そこにはすでに生まれた仔魚たちが群れになっており、混ぜるようにして産みます。 観察は場所もタイミングも特に難しいことは無かったのですが、2016年以来観察はできていません。
2017年から8年近くに及んだ黒潮の大蛇行の影響があるのかは不明ですが、また同じ場所で出産を見てみたいものです。