ネジレカラマツ

螺旋のオーパーツ

Cirrhipathes spiralis

ネジレカラマツは、しなやかな1本の骨格が、見事な螺旋状を描くツノサンゴの仲間です。
水深20mより深い岩礁の急斜面など、潮流の強い場所を好むようです。 造形物のような螺旋の姿は、強い潮流を受けても折れないため、また効率の良い摂餌をするための周到な戦略です。

🔬 専門資料・出典引用(8件)

概要

和名:ネジレカラマツ

英名:Spiral black coral

学名:Cirrhipathes spiralis

提供映像(サンプル映像はyoutube版です)

分類・分布

刺胞動物門 > 花虫綱 > ツノサンゴ目 > ウミカラマツ科 > ムチカラマツ属 > ネジレカラマツ

相模湾以南の太平洋岸、インド洋、西南太平洋。水深30m~500m

特徴・歴史・雑学

ネジレカラマツは、イソギンチャクやサンゴと同じ刺胞動物・花虫綱に属する動物です。 螺旋を描く細い骨軸には、花のような小さなポリプが多数並んでいます。
ポリプは互いに連結しているわけではなく、それぞれ独立した個体ですが、単体では生きることができず、群体としてひとつの生物を成しています。

棲息するのは岩礁の急斜面で、水深20mを超えるやや薄暗い環境から、水深500mの深海にかけてです。 ダイバーが観察できる水深30m程度まででは、螺旋にならないムチカラマツの群生の中に混ざって見られることが多く、ネジレカラマツだけで群生している様子はあまり見かけません。

餌が豊富な激流地帯で生き抜くための骨格


黒サンゴと呼ばれるツノサンゴ目の仲間ですが、生体は鮮やかな色をしており黒くは見えません。 内部の骨軸だけが黒い色をしており、ポリプが死ぬと黒い色が現れます。 錆びたバネのような骨格は、とても動物の骨には見えません。
この黒い骨軸は、「ゴルゴニン」と呼ばれる有機物でできています。 石灰でできた白いサンゴのように硬く脆い構造ではなく、しなやかにたわむ性質を持ち、外力による破損を受けにくい特徴があります。
移動ができないサンゴは、流れてくる粒子を捕らえるしか方法がありませんが、より流れが強い場所に棲むことで、沢山の粒子を得ることができます。 流れに強い構造の体を持つことは、寄り多くの餌にありつこうとするネジレカラマツの戦略です。

骨軸だけになったネジレカラマツ 真っ黒な錆びたバネのようだが、これがネジレカラマツの骨格で、黒サンゴと呼ばれる理由である。

とても生物の骨格とは思えない

20世紀の人類の発明は、深海生物が既に持っていた


ネジレカラマツの螺旋の体は、強い潮流によって形成されるとする研究があります。
もし直線的に伸びる構造であれば、水流の抵抗や衝突による損傷に耐えるため、より硬い骨格が必要になります。 しかし、柔軟なゴルゴニン骨格をもち、螺旋状に成長することで、水の流れを受け流し、衝撃を分散しているという研究です。

実は、螺旋構造による抵抗の分散は、私たちの身近にも見られます。 電線に取り付けられている「スパイラルロッド」がその一例で、風によって生じる振動を抑え、電線の破損や切断を防ぐための装置です。
この仕組みは、1957年にイギリスの国立物理学研究所(NPL)のエンジニア、クリストファー・スクルートンらによって報告されたもので、 円柱に螺旋状のフィンを取り付けることで、風による振動が大きく抑えられることが示されました(1)。
もともとは、工場の煙突など大型構造物が、風によって発生するカルマン渦による振動で大きく揺れ、倒壊するのを防ぐための研究でしたが、 その後、この原理は電線の疲労断線防止に応用されるようになりました。 電線の外側に巻き付けるように設置されたスパイラルロッドが、カルマン渦による微振動や、強風時に起こるギャロッピングを抑える役割を果たしています。

ツノサンゴの仲間は化石に残りにくく、ネジレカラマツの祖先が、いつごろから螺旋になったのかは定かではありません。 3億年前から数千万年前に螺旋の体が誕生したと考えられますが、その時すでに、潮流による振動を軽減し、破損を防ぐ役割を担っていたと考えられます。
そしてその原理は、はるか後の時代になって、ようやく人間の技術として再発見されることになります。

摂餌の効率化。無駄のないポリプの配置


さらにこの螺旋構造は、単に壊れにくいだけでなく、潮の流れを効率よく取り込む役割も担っています。
ポリプは螺旋の外側を向くように偏って配列しており、螺旋という構造による効果も相まって、潮流が各ポリプに均等に行き渡ります。 その結果、餌となるプランクトンをとらえやすくなり、摂餌効率の向上にも寄与していると考えられています(2)。
この構造全体が、潮がぶつかり合うような流れの強い環境に適応した形といえるでしょう。

石でも植物でもない。正体不明な物体には魔力がある


黒サンゴ類は、その黒く硬質な骨軸を持つ特異な性質から、古くより特別な力を宿す素材として扱われてきました。 紀元1世紀の古代ローマの博物学者、プリニウスがまとめた『博物誌』では、 古代ギリシャでは「アンティパテス(ἀντιπαθές)」と呼ばれ、毒や災いに対抗するものとされ、サソリの毒への解毒や呪術から身を守る護符として用いられていたと紹介されています(3)。

このような観念は一地域にとどまらず、スエズから太平洋に至る広い範囲で、黒サンゴに魔術的な効力があるとする信仰として共有されていました。 実際に腕輪などに加工され、病を防ぎ、邪を遠ざけるものとして身につけられていた例も知られています(4)。
黒く、しなやかでありながら強靭な骨軸は、石でも植物でもない異質な存在として人々の目に映り、その不可思議な質感が、見えない力を宿すものとしてのイメージを強めたのでしょう。

食文化・利用

食用の利用はありません。

未来の骨治療


海洋生物の体をつくる構造の中には、人の骨と似た性質を持つものもあり、医療での活用研究が行われています。
海洋生物由来の材料を用いたインプラントの中には、時間とともに分解されて自分の骨に置き換わるものと、分解されず骨と一体化するものの2種類が研究されています。 ゴルゴニンを含む黒サンゴの骨格は後者に近く、ヒトの骨芽細胞および破骨細胞の双方が付着・増殖しやすい性質を持つことから、骨を形成する細胞が入り込む足場として機能する可能性が注目されています。
さらに、その高い生体適合性と構造特性から、「生きた骨インプラント」としての応用も将来的に期待されています(5)。

毒・危険性

ポリプには刺胞がありますが、人に影響は無いとされます。

真っ直ぐに伸びるタイプの「ムチカラマツ」 螺旋を書かない1本のムチカラマツは、より柔軟な体で「たなびく」ことで折れないようにしていると考えられる。

1mを超える長さになる

樹木のようなサンゴ「サビカラマツ」 まるで「海中の盆栽」のような姿だが動物であり、黒サンゴの仲間。褐虫藻が共生しないため、ポリプがとらえるプランクトンが栄養の全てなため、より上へと枝を伸ばす。

より栄養を捕らえるため、上へと伸びる

参考資料

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