ナマコのキュビエ器官

驚異の粘着武器

Holothuria pervicax

ナマコが捕食されないようにするための防衛策はいくつかありますが、キュビエ器官の射出は大きな武器です。 キュビエ器官には、非常に強い粘着性があり、一度張り付くと人の手でも剥がすのは困難です。 魚たちは、粘着力の恐れをなして遠ざかってゆきます。

🔬 専門資料・出典引用(7件)

概要

和名:トラフナマコのキュビエ器官

英名:Cuvierian tubules of Holothuria pervicax

学名:Holothuria pervicax Selenka, 1867

提供映像(サンプル映像は低画質版です)

分類・分布

【分類】棘皮動物門 > ナマコ綱 > 楯手目 > クロナマコ科 > クロナマコ属 > トラフナマコ

【分布】三浦半島以南、紅海、フィリピン、オーストラリア、サモア、タヒチ、ニューカレドニア、グアム、中国、台湾

特徴・雑学

キュビエ器官は、楯手目のナマコに見られる防御器官です。 先端が行き止まりになった中空の極細パイプのような構造で、呼吸樹と呼ばれる体内の呼吸器官から作り出されます。
普段は体内に格納されており、その数は600本ほどと言われています。

静かなナマコの切り札!驚異の粘着攻撃

危険を感じると、ナマコは体内に海水を貯め込んで圧縮し、キュビエ器官の内側へと送り込みます。 すると、マジックバルーンが膨らむかのように、キュビエ器官が肛門から勢いよく伸びて射出されます。
この際、体内にあった状態から、約20倍の長さに伸びるとされています。

体外に射出されたキュビエ器官は、伸びることで表面の細胞が壊れ、その内側にある粘着物質が露出します。 その粘着物質が捕食者に絡みつくことで、防御効果を発揮します。 射出しきったキュビエ器官は肛門側で切断されます。
再生産には2週間から3週間ほどかかると言われていますが、一回の射出は10本から20本ほどのため、すぐに使い切ってしまうことは少ないと考えられています。

キュビエ氏も悩んだ?ナマコの謎の器官

キュビエ器官の名前の由来になった、ジョルジュ・キュビエ(Georges Cuvier 1769-1832) は、19世紀フランスを代表する博物学者・比較解剖学者であり、近代動物学の基礎を築いた人物として知られています。 1817年、キュビエは代表作『Le Règne Animal(動物界)』を出版します。
その後、弟子たちによって増補された『ディシプル版(édition des disciples de Cuvier)』(1)では、比較解剖学的な図版が大量に追加され、ナマコ類を含む棘皮動物の内部構造も詳しく扱われました。
図版には、呼吸樹、水管系、筋肉、卵巣などが細かく描かれ、現在見ても驚くほど精密な比較解剖図が残されており、現在「キュビエ器官(Cuvierian tubules)」と呼ばれている器官も描かれています。

ナマコが刺激を受けた際、肛門付近から白い糸状の器官を射出する現象は、キュビエの時代にはすでに知られていました。 しかし当時は、その器官の正体や役割はまだ十分理解されておらず、「appendices cœcaux(盲嚢状付属器官)」のような曖昧な名称で記されていました。 また、19世紀初頭のドイツの研究者フリードリヒ・ティーデマン(Friedrich Tiedemann)、イタリアの研究者ステファノ・デッレ・キアイエ(Stefano delle Chiaje)らも、 appendices cœcauxを「雄の生殖器官」ではないかと考えていると解説されています。

出典:ジョルジュ・キュビエ『Le Règne Animal(動物界)』ディシプル版 Zoophytes篇(1830)
Biodiversity Heritage Library より

図 a,p.部分の解説

[原文]
a.p. Appendices cœcaux considérés par Tiedmann et Delle Chiaje comme étant les organes mâles.

[訳]
図示a.p. ティードマン(Tiedemann)とデッレ・キアイエ(Delle Chiaje)* によって、雄の生殖器官であると考えられている盲嚢状(先端が閉じた袋状)の付属器官。

現在では「防御器官」として知られるキュビエ器官も、当初からその機能が理解されていたわけではありませんでした。 後になって、捕食者への防御に使われる特殊器官であることが明らかになり、最初にその存在を記載した、ジョルジュ・キュビエの名をとって、「キュビエ器官」と呼ばれるようになりました。

食・利用

トラフナマコを食用にするという資料は見つかりませんが、トラフナマコを含むナマコ類やヒトデ類に含まれる ガングリオキシド成分などを、抗がん剤やアルツハイマー病、パーキンソン病などの治療改善薬の素材とする研究が進められています(2.3)。

毒・危険性

サポニンの一種である毒素、ホロツリン(holothurin)を含むため生では食べられません。
ホロツリンは1961年に、日本の研究者山内氏により発見された物質で、クロナマコ属の学名であるHolothuriaから命名されています(4)。

ナマコの毒成分「ホロツリン」発見の元になったニセクロナマコ ナマコに含まれる毒成分であるホロツリンを発見したのは日本人研究者です。1920年代に気づいたナマコの毒成分は、30年の執念で発見され、ホロツリンと命名されます。

ごく普通に浅瀬に生息する

食用になるマナマコにはキュビエ器官は無い ナマコは海底の砂を触手で口に運んで食べ、その中の有機物を消化します。有機物のなくなった浄化された砂は糞として排出されることから、「海の掃除屋」と呼ばれます。

ナマコは海底を食べて浄化する

放精、抱卵するトラフナマコの繁殖行動 普段は動きのないトラフナマコですが、繁殖の際は活発に動きます。頭を持ち上げ、なるべく高い位置で放精、抱卵するようにしている様子がとらえられています。

普段の静かなナマコとは思えない態勢になる

参考資料

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