コノハゾウクラゲ

逆さまに泳ぐ巻貝

Pterosoma planum

🔬 専門資料・出典引用(6件)

概要

和名:コノハゾウクラゲ

英名:Sea elephant

学名:Pterosoma planum Lesson, 1827

提供映像(サンプル映像は低画質版です)

分類・分布

【分類】軟体動物門 > 腹足綱 > 吸腔目 > ゾウクラゲ科 > コノハゾウクラゲ属 > コノハゾウクラゲ

【分布】黒潮の影響のある太平洋側海域。インド洋、太平洋の温帯、熱帯水域。

特徴・雑学

コノハゾウクラゲ は、巻貝の仲間が外洋生活へ適応した、とても不思議な浮遊性の貝です。 葉っぱのように平たく広がった透明な体で海中を漂い、一見するとクラゲの仲間にも見えますが、実際にはれっきとした「貝」の仲間です。

「ゾウクラゲ」という名前は、前方へ長く伸びた口吻(こうふん)が、象の鼻のように見えたことに由来すると考えられています。 クラゲという名前が付いていますが、刺胞動物のクラゲ類ではなく、巻貝の系統に属する生物です。 一般的な巻貝は海底を這って生活しますが、コノハゾウクラゲはほとんど海底へ降りることなく海面近くから中層を漂い、小さな浮遊生物などを捕食する肉食性の生物です。

逆さまに泳いでる?泳ぐための貝の進化

体は円筒形でありながら、平坦な寒天質で覆われて木の葉のような形に見えます。 体の先端はひょっとこのように上に伸びた口があります。 寒天質との接続部には1対の目があり、後部は細い尾が伸びます。 コノハゾウクラゲは、一般的な巻貝の構造と比べると、上下が逆になって浮遊しています。 背ビレのように見える遊泳器官のある上面が「腹側」で、遊泳器官は“腹ビレ”と呼ばれ、元々の足です。 下面は“背側”で小さな胎殻、内臓があります。

「生きた未知の生物」を求めた研究者

コノハゾウクラゲを記載したルネ・プリムヴェール・レッソン(René Primevère Lesson/1794–1849)は、19世紀前半に活躍したフランスの博物学者・海軍軍医です。 まだダーウィンの『種の起源』すら存在せず、生き物は神によって創られたものだと考えられていた時代、彼は軍医兼博物学者としてフランス海軍コルベット艦「ラ・コキーユ号」での世界を周航する科学調査へ参加し、1822年~1825年の3年間、未知の生物を採集・研究していました。
当時の博物学者の中には、博物館へ集められた標本を研究する人物も多く存在しましたが、レッソンは実際の航海へ参加し、採集と研究を同時に行う“現場主義”の研究者でした。 調査対象は海洋生物だけでなく、鳥類や植物なども対象でしたが、当時の技術では劣化の無い長期の保存は極めて難しく、採集してもすぐに崩れ、色や形を失ってしまいます。 レッソンは、劣化した標本の分類ではなく、「生きている姿」を重視して記録する博物学者でした。

1823年8月31日、レッソンはモルッカ諸島とニューギニアの間に広がる赤道付近の暖海で、奇妙な透明生物を観察します。 それが現在「コノハゾウクラゲ」と呼ばれている Pterosoma planum でした。
彼はこの生物について、「まるですべてが鰭でできているようだ」と表現しており、透明な膜を広げながら水平姿勢で泳ぐ姿に強い衝撃を受けていたことがうかがえます。

世にも不思議な生物の新種誕生

レッソンはその後、1827年に『Description d'un nouveau genre de mollusques nucléobranches nommé Pterosoma』を発表し、新属 Pterosoma と、新種 Pterosoma plana(現在の Pterosoma planum)を記載しました(2)。 この論文は、コノハゾウクラゲの新属・新種記載論文として知られています。
さらに、ラ・コキーユ号世界周航記の図版集『Voyage autour du monde sur la corvette La Coquille – Atlas de Zoologie』(1)には、コノハゾウクラゲの詳細な図版も掲載されました。 そこでは「Ptérosome aplati(平たいプテロソマ)」と表現され、表面図だけでなく下面図も描かれています。 1820年代の時点で、すでにこの奇妙な浮遊性巻貝の形態がかなり詳細に観察されていたことがわかります。

レッソンの記録には、水平姿勢で泳ぐ様子、ゼラチン質で透明な体、ピンク色の消化管、黒い眼など、“生きている状態”でしか分からない情報が数多く残されています。 現在でもコノハゾウクラゲは標本だけでは理解しづらい生物であり、200年以上前に赤道の海で生体を観察した彼の記録は、現代においても非常に貴重な資料となっています。

[訳]
核鰓類軟体動物に属する新属 Pterosoma の記載

ルネ=プリムヴェール・レッソン (René Primevère Lesson/1794–1849)

コキーユ号探検隊付博物学者 パリ自然史協会通信会員

1827年8月31日 自然史学会にて報告

我々はここに、新たな属 Pterosoma を提唱する。 本属は、フィロエ属(Firola)に近縁であり、ブランヴィルが定めた核鰓類(Nucléobranches)の中に位置づけられるべき動物を収容するために設けたものである。 この判断は、両者の組織構造に見られる顕著な類似性に基づいている。

本属は次の特徴によって区別される。 体は細長く遊泳性で、中央部がやや膨らんだ円筒形を呈する。 組織はゼラチン質で、全体は硝子様の透明感をもつ。 口には角質の顎が備わるが、前方へ突出する吻は存在しない。 眼は二個で、体の後端近くに接して配置される。尾部は細い円筒形で先端に向かって尖る。 体全体は左右一対の大きな水平翼状鰭に包まれ、これらは尾部から始まって前方へ伸び、頭部を越えて口の前方で互いに連結する。 その結果、上面はわずかに凸、下面はやや凹んだ大きな円盤状構造を形成する。 鰭の前縁は厚く切り立ち、後縁はより薄く狭くなる。 Pterosoma は、その外観の大部分が鰭によって構成されているように見える。 この点において、魚類のエイ類に最も近い印象を与える軟体動物である。 体幹の上半部は細長い円筒形であり、その下方にはしばしば空気で満たされた腔所が認められる。 この腔所は消化器系に沿って走る不明瞭な白色の管状構造の上部に位置し、内部を満たす赤色物質によって識別できる消化管と隣接している。 消化管は体の最も膨らんだ部分を螺旋状に走行し、体中央部で大きく拡張した後、深い溝によって隔てられた二本の円筒状部分へ分岐し、尾部近くで再び合流する。 おそらく排泄器官も存在すると考えられるが、本観察では確認できなかった。 今回観察できたのは一種のみであり、それを Pterosoma plana と命名する。 本種は1823年8月31日、モルッカ諸島とニューギニア島の間に位置する赤道付近の暖海域で多数採集された。 全長は約5インチ、幅18ライン、厚さ3〜4ラインに達する。 背面はわずかに盛り上がり、小さな突起が散在する。 これらの突起は腹面よりも背面で顕著であり、特に体が膨らんで二分する部分の外縁に集中している。 腹面上部にも不規則な小隆起が見られ、口に近づくほど淡紅色を帯びる傾向がある。 本属の体組織はフィロエ属に極めてよく似ている。 組織は透明で粘液質に富み、比較的緻密である一方、細い血管網が全体に分布している。 眼は黒色で、両眼の間隔は非常に狭く、ほとんど接しているように見える。消化管は鮮やかな桃色を呈し、体表の突起群は通常淡い桃色である。 尾部は濃赤色を帯びるが、体本体は完全に透明な硝子様白色を示す。 本種は海中を非常に活発に遊泳し、その運動は急速かつ機敏である。 遊泳時には体を水平に保つ。しかし、新鮮な海水が循環しない少量の海水中に置かれると、短時間で死亡する。

食・利用

一般に食用として流通する生物ではありません。

毒・危険性

人に危険を及ぼす毒や棘は報告されていません。

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参考資料

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