怪我をした魚たち

魚類の生き残り戦略

Strategies for Survival in Fish

概要

和名/英名/学名
タカベ / Yellow-striped / Labracoglossa argenteiventris
イシガキフグ / Spotfin burrfish / Chilomycterus reticulatus
ムツ / Gnomefish / Scombrops boops
メジナ / Largescale blackfish / Girella punctata
マタナゴ / Temminck's surfperch / Ditrema temminckii pacificum
ウツボ / Kidako moray / Gymnothorax kidako
キュウセン / Multicolorfin rainbow wrasse / Parajulis poecileptera
ホシエイ / Pitted stingray / Bathytoshia brevicaudata
ホウライヒメジ / Whitesaddle goatfish / Parupeneus ciliatus

撮影地:静岡県伊東市

提供映像(サンプル映像は1920x1080/30pです)

特徴・雑学

一般に、捕食者から逃れる際に傷を負った動物は、体力を消耗し、動きが鈍くなることでさらに危険な状況に追い込まれます。 衰弱した個体は再び狙われやすくなり、捕食される、もしくはそのまま命を落とすということがほとんどです。 陸上生物では、外傷が致命傷となることが多く、回復の余地は限られています。

甲殻類では、捕食者に襲われた際に、脚を切り離して逃げる「自切」を行う種類がいます。
「トカゲの尻尾切り」同様に、切り離した足を犠牲にすることで、本体の損傷を避けるためで、失った脚は脱皮を繰り返すと元に戻ります。
魚類の場合、自切する部位は用意されておらず、襲われれば本体のどこかに損傷をうけますが、甲殻類とは別の回復方法を持っています。

魚の多くは、欠けたヒレや損傷した体表を再生・修復する能力に優れており、重度の怪我を負っても生き延びることがあります。
傷を負いながらも泳ぎ続ける魚は、死を待っているのではありません。

 

参考動画:切り離した脚を再生するショウジンガニ

【急所以外の再生能力】
ただし、魚類の再生能力にも限界があります。
体表やヒレなどの末端部は再生できても、頭部や内臓、脳や眼球といった生命維持に直結する重要な部位は再生できません。 そのため、頭部に深刻な損傷を受けた個体や、摂餌や遊泳に大きな支障が出る怪我を負った場合、生き延びることは極めて困難になります。

実際に再生が確認されやすい部位としては、背鰭や尾鰭の欠損が挙げられます。 捕食者に噛みつかれた跡でヒレが大きく欠けていても、時間の経過とともに輪郭がなだらかになり、新しい鰭条が形成されていく様子が観察される例があります(*1*2)。
また、体側の浅い外傷や表皮の損傷も、比較的回復しやすい例です。 出血や表皮の剥離が見られても傷口は次第にふさがり、色素の再形成によって周囲と区別がつきにくくなる場合もあります。

一方で、眼の欠損や顎の破損などは回復が難しく、視覚や摂餌能力が損なわれた個体は、たとえ生存していても長期的に生き残る可能性は低くなります。

魚類の再生能力は「万能」ではありません。 再生できる部位とできない部位がはっきり分かれており、その境界線の内側に傷が及ぶかどうかが、生と死を分ける大きな要因となります。

 

参考動画:傷を負った個体の多いタカベの群れ

【攻撃をそらす】
魚類は、頭部という致命的な急所を狙われにくくする工夫を発達させてきました。 再生できない部位を守るため、攻撃そのものをかわす、あるいは誤認させるという戦略です。

代表的な例のひとつが、「眼状紋(がんじょうもん)」です(*3)。
体の後方やヒレに「目のような模様」を持つ魚は少なくありませんが、これは捕食者の注意を頭部から逸らし、攻撃を致命傷になりにくい部位へ誘導する役割を果たしていると考えられています。
捕食者が一瞬の判断で噛みつく場面では、「どこが頭なのか」を誤認させることが、生死を分ける重要な要素になります。

また、行動面での防御戦略として知られているのが、バースト アンド コースト(burst-and-coast)と呼ばれる遊泳様式です。 これは、瞬間的に強く泳ぐ「バースト」と、惰性で進む「コースト」を繰り返す動きで、捕食者に進行方向や速度を予測させにくくする効果があります。 一定速度で逃げ続けるよりも、急加速と減速を交えた不規則な動きのほうが、捕食者の狙いを外しやすく、結果として頭部への直撃を避ける確率を高めます(*4*5)。

このように魚類は、再生できない部位を守るために、形態と行動の両面から防御戦略を組み合わせてきたと考えられます。

 

参考動画:背鰭に眼状紋を持つタキゲンロクダイの幼魚

 

【ヒトへの応用】
このような魚類の再生能力は、魚類だけの特別な例外ではなく、人間にも備わっているものだと考えられています。
魚類の再生の仕組みを解明し、失った皮膚の再生をはじめ、心血管、神経変性疾患、ガンなどの治療法開発への応用研究がすでに行われている分野でもあります(*6)。

参考資料

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