ヒトデを食べるボウシュウボラ。 大きな巻貝は、ヒトデなどを抑え込んでゆっくりと食べます。 内臓にはテトロドトキシンなどの毒があるので食用としては要注意ですが、有毒部を除去してご当地食材として親しまれている地域があります。
概要
和名:ボウシュウボラ
英名:Saul's triton shell
学名:Charonia lampas (Reeve, 1844)
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:5月、6月
- 主な水深:6m
- 映像特徴:ボウシュウボラがヒトデを食べる摂餌映像
提供映像(サンプル映像はYouTube版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
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分類・分布
【分類】軟体動物門 > 腹足綱 > 吸腔目 > フジツガイ科 > ホラガイ属 > ボウシュウボラ
【分布】*****
特徴・雑学
ボウシュウボラは、日本沿岸で見られる大型の巻貝で、殻は厚く、全体にふくらみのある紡錘形をしています。 殻の表面には太い螺肋やこぶ状の凹凸が並び、白色から黄褐色の地に褐色の斑紋が入る、重厚な姿が特徴です。成長すると殻長20cmを超える大型種となります。 生きている個体では、殻以上に目を引くのが鮮やかなオレンジ色の軟体部です。 特に大きく広がる足や外套膜には、赤みを帯びた濃いオレンジ色が現れ、黒色や褐色の斑点・模様が加わることもあります。 海底を這う姿では、この強烈なオレンジ色が非常によく目立ち、殻だけを見たときとはかなり印象の異なる、華やかな姿を見せます。 日本では本州中部以南の暖かい海域を中心に分布し、岩礁や転石のある海底に生息します。 潮下帯から比較的深い場所まで見られ、岩の隙間や岩礁上を移動しながら、ヒトデ類などを捕食します。 大型で目立つ巻貝ですが、岩陰などに入り込んでいることもあり、常に開けた場所を歩いているわけではありません。
多彩なクダクラゲが存在し、すべて群体性の生物である
卵を守る巻貝、母ボウシュウボラの卵保護
ボウシュウボラは雌雄が分かれており、交尾によって繁殖します。 雌は冬の産卵期になると、岩の表面や岩陰などの硬い場所に、多数の卵が入った卵嚢(らんのう)を一つずつ付着させます。 卵嚢は細長い袋状で、それがまとまって並ぶため、産卵場所には卵嚢の大きな塊が形成されます。
特に興味深いのが、産卵後も雌が卵嚢のそばにとどまる行動です。 ボウシュウボラの仲間では、雌が卵塊を覆うようにして長期間その場にとどまり、卵を保護する行動が知られています。 巻貝というと産卵後は卵を残して立ち去るイメージがありますが、ボウシュウボラでは親による卵の保護、いわゆる卵保護(brooding/egg guarding)が見られます(1)。
卵嚢の中で発生した幼生は、やがて海中へ泳ぎ出し、浮遊幼生(ベリジャー幼生/veliger larva)として生活します。 この浮遊期間によって親の生息場所から離れた海域にも分散し、その後、海底生活へ移行して成長していきます。
ボウシュウボラの餌となる
ボウシュウボラの内臓は猛毒、だが全ての個体ではない
ボウシュウボラは、フグ毒として知られるテトロドトキシン(TTX)を蓄積することがある有毒な巻貝です。 毒は特に中腸腺(消化腺)に蓄積します。 1981年の研究では中腸腺から毒が分離され、化学的な分析によってTTXであることが確認されています。
静岡県沿岸で691個体を調べた大規模な調査(2)では、有毒個体は全体の66%でした。 ただし地域差が非常に大きく、伊東では30%だったのに対し、清水では93%が有毒でした。 中腸腺の平均毒力は151 MU/gで、最高値は沼津で2,580 MU/g、清水で1,950 MU/gに達しています。 平均毒力の低い地域でも400~500 MU/gという強い毒性を示す個体が確認されており、個体差も非常に大きいことが分かっています。
また、有毒個体の割合は地域によって大きく異なります。 宮崎県で375個体を調査した研究では有毒個体は19%、鹿児島県の70個体では43%でした。 つまり、すべてのボウシュウボラが同じように毒を持つわけではなく、生息地域や個体によって毒性が大きく変化します。
この毒は、ボウシュウボラ自身が作り出すのではなく、餌から取り込んで中腸腺に蓄積する可能性が高いと考えられています。 実際に、TTXを持つトゲモミジガイを与える飼育実験では、1~4週間後にすべてのボウシュウボラの中腸腺から毒性が検出され、TTXの平均蓄積率は33%でした。 さらに無毒の餌に切り替えて40日間飼育しても、毒力は大きく低下しませんでした。
外見から有毒か無毒かを判断することはできず、特に中腸腺は食べるべきではありません。 実際に1979年には静岡県三保沖で採取されたボウシュウボラの中腸腺を加熱して食べた男性が重篤な麻痺を起こし、13日間入院する食中毒事故も記録されています。
致死量に相当するテトロドトキシン(フグ毒)を持つ
食・利用
ボウシュウボラは、地域によって食用にされることのある大型の巻貝です。 全国的に広く流通する食材ではありませんが、漁獲される沿岸地域では古くから利用されてきました。 兵庫県の明石浦では「巻きアワビ」とも呼ばれ、足の筋肉部分を薄く切り、刺身として食べる方法が知られています(3)。 身には大型巻貝らしい弾力があり、コリコリとした食感を楽しむことができます。
珍味ボウシュウボラはプロに頼むのが無難
一方、ボウシュウボラを食べる際には、内臓、特に中腸腺(消化腺)に注意が必要です。 ボウシュウボラは餌からテトロドトキシン(TTX/フグ毒)を取り込み、中腸腺に高濃度で蓄積することがあります。 実際に日本では、中腸腺を食べたことによる麻痺性食中毒が発生しています。TTXは通常の加熱調理では無毒化できないため、煮たり焼いたりすれば安全になるものではありません。
このため、食用に利用されるのは主に足の筋肉部分で、内臓を含めて丸ごと食べるような調理には適しません。 地域によって食文化として利用されてきた貝である一方、毒を持つ可能性のある部位を正しく除去する知識が必要な食材です。
毒・危険性
ボウシュウボラは、主に中腸腺(消化腺)にテトロドトキシン(TTX/フグ毒)を蓄積します。 全ての個体が蓄積してるわけではありませんが、毒性は強毒で、毒の有無は外見から判断することはできません。 地域によっては珍味として珍重されますが、ボウシュウボラを知識なく安易に食べるのは危険です。
広島県では珍味として食される
卵嚢は「ウミホウズキ」と呼ばれ、昭和の屋台で笛として売っていた
参考資料
- JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 1)A Review of the Giant Triton (Charonia tritonis), from Exploitation to Coral Reef Protector?
(オニヒトデを捕食するホラガイ Charonia tritonis の総説 ― 利用対象からサンゴ礁の保護者へ?)
Cherie A. Motti, Scott F. Cummins, Michael R. Hall
Diversity, 14(11), 961(2022)
DOI: 10.3390/d14110961
▶ 見る - 2)The Toxicity of Digestive Gland of Trumpet Shells Inhabiting the Coast of Shizuoka
Prefecture
(静岡県沿岸に生息するボウシュウボラの中腸腺の毒性)
Hiroko Narita, Kaichiro Watanabe, Keisuke Baba, Hirohisa Ohgami, Toshio K. Ai, Yasumasa Igarashi, Masato Nara, Tamao Noguchi, Kanehisa Hashimoto
食品衛生学雑誌 Vol.27, No.1, pp.15-19(1986)
DOI: 10.3358/shokueishi.27.15
▶ 見る - 3)ボウシュウボラの刺身
明石浦漁業協同組合
クックパッド(2021)
DOI: なし
▶ 見る