アイオイクラゲ

長すぎる海洋生物

Rosacea cymbiformis

アイオイクラゲは3mにもなるという細長い生物です。 その体は、クローンである「個虫」が連結したもので、非常に繊細で簡単に千切れてしまいます。 海中では、完全な形で観察できる事は非常に稀で、捕獲や飼育も難しいと言われています。

本ページは随時更新されます

概要

和名:アイオイクラゲ

英名:------

学名:Rosacea cymbiformis (Delle Chiaje, 1830)

提供映像(サンプル映像はYouTube版です)

分類・分布

【分類】刺胞動物門 > ヒドロ虫綱 > クダクラゲ目 > アイオイクラゲ科 > アイオイクラゲ属 > アイオイクラゲ

【分布】本州中部以南の外洋域、世界中の温帯〜熱帯海域の表層から中層

特徴・雑学

アイオイクラゲは、先端に二つの透明な泳鐘(えいしょう/nectophore)が隣り合い、その中心から「幹(stem)」と呼ばれる体の軸が伸びています。 軸には、摂餌や消化を担当する栄養体(gastrozooid)、触手や感覚機能に関わる感触体(tentacular palpon)、生殖を担当する生殖体(gonophore)などの、役割に分かれた個虫(こちゅう/zooid)が接続されています。
幹の根元にある出芽帯(budding zone)で形成された個虫は役割を与えられたクローンで、幹と接続することでアイオイクラゲの一部として機能します。 出芽帯からは、無作為に個虫が形成されるわけではなく、セットのように各機能を持った個虫が順に形成され、幹群(cormidium)と呼ばれます。 アイオイクラゲは、いくつもの幹群が連なった長いシフォソーム(siphosome/栄養体部)を持ち、最大では 隣り合った二つの泳鐘の大きさは、10%ほどの差があり、大泳鐘、少泳鐘と呼ばれます。 この、大きさの違う二つの泳鐘を、寄り添って生きる夫婦にたとえて「相生」と命名されています。

相生、相老・夫婦和合と長寿の象徴

「相生(あいおい)」とは、本来、一本の根から二本の幹が寄り添うように生える松を意味する言葉です。
古くから、夫婦が共に生き、共に老いる姿になぞらえられ、「相老(あいおい)」にも通じる縁起の良い言葉として扱われてきました。
平安時代の『古今和歌集』仮名序には、「高砂、住の江の松も、相生の様に覚え」という一節があり、離れた土地にある松同士が、まるで夫婦のように心を通わせるものとして表現されています。

この言葉は後に、世阿弥による能『高砂』の題材となりました。
能『高砂』では、播磨国の「高砂の松」と、摂津国住吉の「住の江の松」が、「相生の松」として語られます。 作中では、二本の松の精が老夫婦の姿で現れ、「山川万里を隔つれども、たがひに通ふ心づかひの、妹背の道は遠からず」と、離れていても心が通い合う夫婦の姿を語ります。 能『高砂』は、長寿や夫婦和合、平和な世を寿ぐ「祝言能」として知られ、現在でも結婚式や祝いの席で「高砂や、この浦舟に帆をあげて――」という謡が歌われることがあります。

アイオイクラゲの大きさの違う二つの泳鐘は、寄り添うように並ぶところから、相生の松になぞらえて、アイオイクラゲと命名されたのでしょう。
その姿は、古くから語られてきた「相生」のイメージと、どこか重なって見えるのです。

個々の集団で「ひとつの生命体」

アイオイクラゲを含むクダクラゲ類は、形のあるひとつの生物ですが、体は「個虫(こちゅう/zooid)」と呼ばれるクローン個体の集合によって構成されています。
個虫にはそれぞれ役割があり、浮力を調整する気泡体(pneumatophore)、推進力を生み出す泳鐘(えいしょう/nectophore)、摂餌や消化を担当する栄養体(gastrozooid)、 触手や感覚機能に関わる感触体(tentacular palpon)、生殖を担当する生殖部(gonophore)などに分化し、これらの個虫が「幹」で連結することで、ひとつのクダクラゲとして機能しています。

「ひとり」という概念

クダクラゲを人間に例えるなら、「胃を担当するクローン」「足を担当するクローン」「生殖を担当するクローン」などが、それぞれ“パーツ”として存在し、連結してひとりの人間を形成しているようなものです。
これらのパーツは、神経細胞や筋肉細胞のような「細胞」ではなく、個虫と呼ばれる個体です。
それぞれがひとつの生命体でありながら、単独では生きることができません。
このような形態を「群体生物(Colonial organism)」と呼びます。

一方で、物理的には繋がっていない個体同士が協力し、「ひとつの生物」のように振る舞う集団を「超個体(Superorganism)」と呼びます。
例えば、女王アリや働きアリが高度な分業を行うアリのコロニーが、その代表例です。
個々のアリは独立した個体ですが、単体では生きていくことが難しく、集団全体でひとつの生命体のように機能しているという考え方です。
この「超個体」をさらに押し広げたものが「ガイア理論」で、地球そのものを巨大なひとつの生命体として捉える思想です。
これらはいずれも、「ひとつの生命とは何か」という問いを探求するものであり、役割分担の特化したクダクラゲは、その議論の中でも特に興味深い生物として知られています。

地球で最も長い生物?

深海に棲むマヨイアイオイクラゲ(Praya dubiaは、長さが40m~50mあるとされる、とても「長い」生き物です(1)。 ただし、非常に繊細な生き物で、わずかな衝撃でも群体が崩れてしまいます。 そのため、生きたままの長期展示や、完全な形での標本保存は難しいとされています。

巨大なクダクラゲ群体
出典: Schmidt Ocean Institute(YouTube)

食・利用

食用として利用される生物ではありません。 刺胞毒や発光、群体構造などの研究対象となることがあります。

毒・危険性

刺胞には毒があります。
アイオイクラゲの毒性の強さについては資料が無く不明です。 いずれにしろ、海で泳ぐ際には肌の露出を控えた方が安全です。

群体生物のクダクラゲ(ダイジェスト) クダクラゲのダイジェスト版水中映像。実の多様な形が存在する

さまざまな形のクダクラゲがいる

とても生物とは思えないボウズニラの姿 生物とは思えないボウズニラの水中映像。小さな気泡体で漂い、幹群を伸縮させていた。

泳がないが、幹群の伸縮を繰り返していた

参考資料

他の水中映像をチェックする
お問い合わせフォーム