マアジ

地域を背負う庶民の魚

Trachurus japonicus (Temminck & Schlegel, 1844)

🔬 専門資料・出典引用(18件)

概要

和名:マアジ

英名:Japanese jack mackerel

学名:Trachurus japonicus (Temminck & Schlegel, 1844)

マアジは刺身や干物で親しまれる、日本で最も代表的で身近な魚です。 しかし、海の中では意外と出会う機会の少ない魚で、その生態にはまだ分かっていない部分も多く残されています。
映像の個体は岸近くで撮影されたもので、沿岸に生息する「キアジタイプ」と考えられます。 マアジは寿命が5年~10年とされており、これらは1歳未満の若い個体とみられます。

提供映像(サンプル映像は低画質版です)

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > アジ科 > マアジ属 > マアジ

日本各地の沿岸、東シナ海

特徴・雑学

マアジは、細長くやや側扁した体形をもち、遊泳に適した流線型の魚です。
体側には硬い鱗が並んでおり、これを「ゼイゴ」と呼びます。 ゼイゴは外敵から身を守る役割をもち、触れるとざらつきを感じる特徴的な構造です。
食性は主に動物食で、オキアミなどの小型の甲殻類やシラスなどの小魚を捕食します(1)。

【謎に包まれた繁殖】
マアジは孵化から1年で約18cm、2年で約24cmほどに成長し、寿命は5年~10年であると考えられ、40cmほどになります(2.3)。
生息範囲が広いため、産卵時期や期間は地域によって異なりますが、水温16~17℃前後で活発になるとされ、九州では1月~3月千葉県では5月~6月とされています。 1歳でも成熟する個体が一部あり、2歳以上では100%が成熟し、繁殖に参加します。
産卵場所は、水深200m~100mの大陸棚の内側で、沿岸域を含む広範囲な海底であると考えられています(3.4.5)。

【地域限定であった生食】
マアジを食べてきた歴史は古く、縄文時代の遺跡からはアジ類の魚骨が出土しており、資料によってはマアジ(Trachurus japonicus)の同定例も確認されています(6.7)。
鮮度の低下が早い魚であるため、古くから干物などの保存加工を施して食用とされてきました。 一方、海に近い地域では生食で食べる習慣があり、味の食のバリエーションはとても多彩でした。
元禄10年(1697年)に、徳川将軍家の侍医であった「人見 伝左衛門 必大」によって刊行された、食物と健康の百科事典である『本朝食鑑』では、 炙って食べると素晴らしく、熟れ鮨(なれずし)や、刺身(膾)でも絶品であると紹介されています(8)。

『本朝食鑑』下巻(第9巻)鱗部之三より

[原文]
其味甚美 或云 此魚者 味之至多之故 称鰺
自春末至秋末多采之 就中 其味不過六七寸 而圓肥者 味甚香美 最宜炙食 或作鮓
作膾亦絶佳 鮮魚品類雖多 此類中 抜而上等 供貴美之 是江都之珍也

漁浦常采為脯 鱠亦好 冬春之際 魚瘠無味 故専乾曝之 為民間之用
(中略)
主治 肉気味甘温無毒 益気和胃
試療何病 而無害 或謂 破血 故療病 皆禁之 然此魚 食之不害

[訳]
その味わいは大変素晴らしい。ある説では、この魚は「味が至極、多大である(非常に美味しい)」という理由から「アジ」と名付けられたという。
春の終わりから秋の終わりにかけて多く獲れる。なかでも、大きさが六〜七寸(約18〜21cm)ほどで、丸々と太っているものの味は非常に香ばしく美味である。
炙(あぶ)って食べるのが最も良く、あるいは「すし(熟れ鮨)」にするのも良い。
刺身(膾)にしても絶品である。鮮魚の種類は多いが、アジはこの類の中では群を抜いて上等なもので、貴人にも供される美食であり、江戸(江都)の珍味である。

漁村では常にこれを獲って干物(脯)にしており、刺身もまた好まれる。冬から春の間は魚が痩せて味が落ちるため、もっぱら天日干しにして庶民の食用とする。
(中略)
【効能】身の性質は、味は甘みがあり、体を温め、毒はない。元気を補い、胃腸の調子を整える。
どんな病気のときに食べても害はない。ある説では「血を破る(血行を促進しすぎる)」ため、病人は禁食すべきだというが、この魚を食べて害があった例はなく、気にする必要はない。

【地域を背負うマアジへ】
現在では、保冷技術や輸送網の発達により、水揚げされたマアジは鮮度を保ったまま全国各地へと届けられるようになりました(9)。 かつては産地周辺での消費が中心であった生のマアジも、今ではどこでも新鮮な状態で味わうことができます。
こうした中で注目されたのが、「〇〇のアジはうまい」という地域ごとの評判です。 しかしそれは経験に基づくものであり、品質が常に保証されたものではなく、「ハズレ」も少なからず存在していました。

そこで、“どこで、どのように獲られ、どのように扱われたか”という履歴そのものを明確にし、さまざまな基準を設けることで、 担保されていなかった「評判」を制度として保証する仕組みが整えられていきます。
“うまい”という評価は再現可能な品質として管理されるようになり、誰が手にしても外れのない「ブランドフィッシュ」へと変わりました。 かつての庶民の魚は、いまや地域の誇りを背負う存在となり、地域の漁業を支える重要な資源となっています(10.11.12)。

食・利用

マアジは、干物や刺身、焼き物、フライなど、さまざまな調理法で親しまれている魚です。 脂の乗りと身質のバランスに優れ、日常の食卓から料理店まで幅広く利用されています。
マアジには、沿岸に居つく「キアジ」と、回遊性の強い「クロアジ」といったタイプがあり、生活環境の違いによって特徴が分かれます。 一般に、キアジは脂が乗りやすく刺身に向き、クロアジは身が締まり、干物や加熱調理で持ち味を発揮するとされます。
どちらが優れているというものではなく、それぞれの特性に応じて使い分けられ、違いそのものを楽しむことができる魚です。

毒・危険性

毒性はありませんが、鮮度が落ちると、ヒスタミンによるアレルギー様食中毒を引き起こす恐れがあります(13)。

マアジとよく似る「メアジ」 メアジ水中映像

目が大きいので目鯵と呼ばれる

小アジ、豆アジ、ジンタなどと呼ばれる小さなマアジ 小アジ・マアジの子供の水中映像

初夏の風物詩的な食材

参考資料

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