輝くような青い縞模様の美しいキンチャクダイですが、意外と模様は一定していません。 個体によっても差がある上に、同じ個体の左右も全く違いますが、どれも同じように見えるところが不思議です。
概要
和名:キンチャクダイ
英名:Bluestriped angelfish
学名:Chaetodontoplus septentrionalis (Temminck & Schlegel, 1844)
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:6月~8月
- 主な水深:5m~20m
- 映像特徴:キンチャクダイの泳ぐ様子、模様の状態
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 総ビットレート:60424kbps
- 長さ:2 分 28 秒
- サイズ:1.04GB
分類・分布
【分類】 > 条鰭綱 > スズキ目 > キンチャクダイ科 > キンチャクダイ属 > キンチャクダイ
【分布】相模湾以南、台湾、中国、朝鮮半島
特徴・雑学
体は左右に平たく、やや背の高い楕円形をしています。 体色は黄褐色から茶褐色で、体側には鮮やかな青色の細い縞模様が走ります。 幼魚は黒い体をしており、目の後方に黄色い帯がありますが、全長50ミリを超えるころから体に4本の青い縞模様が出始めます(1)。
沿岸の岩礁やサンゴ礁などに生息します。 単独または少数で行動することが多く、海綿などの付着性の小動物や藻類などをついばむ雑食性の魚です。
動く縞模様・チューリングパターンの実証
キンチャクダイの体には、鮮やかな青い線が複雑に曲がりながら走っています。 この模様は左右で同じではなく、個体によっても線の曲がり方や分岐の仕方が異なります。 同じキンチャクダイ科の魚では、こうした縞模様が成長に合わせて変化し、線の間隔を保つように新しい線が生まれたり、線の形が組み替わったりすることが研究されています(2)。
キンチャクダイの左右の模様パターン
▲ 同じようだが全く違う
その仕組みを説明するものとして考えられているのが「チューリング・パターン(Turing pattern)」(3)です。 これは、皮膚の中で模様の形成を促す働きと、それを抑える働きが互いに影響し合いながら広がることで、もともと均一だった場所から自然に濃淡や縞模様が生まれるというものです。 線の一本一本について「ここに線をつくる」という細かな設計図があるのではなく、局所的な相互作用から一定の間隔を持った模様が自発的につくられていきます。
この理論を実際の魚で確かめたのが、大阪大学の近藤滋氏です。 近藤氏は、成長すると模様が変化するタテジマキンチャクダイに着目し、実際に飼育しながら縞模様の変化を観察しました。 すると、魚の成長によって縞の間隔が広がると、一本の縞がまるでファスナーが開くように二本へ分かれ、縞の数が増えていくことが確認されました。 この変化はチューリング理論によるコンピューター・シミュレーションの予測とよく一致し、1995年に『Nature』で発表されました(4)。
タテジマキンチャクダイの幼魚
▲ 成長と共に模様が変化する
70年以上前に数学者アラン・チューリングが理論として予測した「単純な相互作用から自然に模様が生まれる仕組み」が、実際の生物の模様形成と結びついた例として知られています。 キンチャクダイの青い線も成長とともに増えていきますが(1)、タテジマキンチャクダイと同じ仕組みによってつくられているかどうかは、まだ明らかになっていません。
魚は他人を識別する?・模様と識別の関係
キンチャクダイの青い模様は個体によってパターンが異なります。 魚類の一部では、顔にみられる個体ごとの差を利用して仲間を識別できることが知られています(5)。 キンチャクダイにも個体ごとに異なる色彩パターンがありますが、それを実際に個体識別に利用しているかどうかは分かっていません。
キンチャクダイの顔の模様
▲ 個体識別しているかは確認されていない
食・利用
刺網や定置網などで漁獲されることがありますが、一般に食用とはされません。 キンチャクダイ科は臭みが強く不味いとされ、食用にはされないという資料があります(6)。
鮮やかな青い縞模様から観賞魚としても利用されています。
アカネキンチャクダイと呼ばれる
参考資料
- 日本産魚類全種リスト(分類情報)
▶ 見る - JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 学研の図鑑LIVE魚・学研・本村浩之総監修
- 原色魚類大図鑑・北隆館・阿部宗明監修
- 1)First results of larval rearing and development of the bluestriped angelfish
Chaetodontoplus septentrionalis (Temminck & Schlegel) from hatching through juvenile stage with
notes on its potential for aquaculture
(キンチャクダイの孵化から幼魚期までの仔魚飼育と発育に関する初報、および養殖の可能性について)
Ming-Yih Leu, Yu-Hsuan Sune & Pei-Jie Meng
Aquaculture Research, 46(5), 1087–1100(2015)
DOI: 10.1111/are.12265
▶ 見る - 2)第15回 生き物のからだの模様をつくりだす仕組みにズーム・イン! ~大阪大学大学院生命機能研究科・パターン形成研究室を訪ねて
(チューリング理論の実証で「Nature」の表紙を飾る)
テルモ生命科学振興財団
生命科学DOKIDOKI研究室(2019)
DOI: なし
▶ 見る - 3)The Chemical Basis of Morphogenesis
(形態形成の化学的基礎)
Alan M. Turing
Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences,237(641),37–72(1952)
DOI: 10.1098/rstb.1952.0012
▶ 見る - 4)A reaction–diffusion wave on the skin of the marine angelfish Pomacanthus
(海産キンチャクダイ科魚類 Pomacanthus の皮膚における反応拡散波)
Shigeru Kondo, Rihito Asai
Nature, 376, 765–768(1995)
DOI: 10.1038/376765a0
▶ 見る - 5)The ability of teleost fishes to recognize individual faces suggests an early evolutionary
origin in vertebrates
(硬骨魚類の個体顔認識能力は、脊椎動物におけるその能力の古い進化的起源を示唆する)
Masanori Kohda, Shumpei Sogawa, Will Sowersby
Frontiers in Psychology, 15:1497386(2024)
DOI: 10.3389/fpsyg.2024.1497386
▶ 見る - 6)黒潮あたる鹿児島の海 内之浦漁港に水揚げされる魚たち
(Field guide to fishes landed at Uchinoura Fishing Port, Kagoshima, Japan)
小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(編)
鹿児島大学総合研究博物館(2018)
DOI: なし
▶ 見る - 7)Chaetodontoplus septentrionalis (Temminck & Schlegel, 1844)
(藍帶荷包魚/キンチャクダイ)
邵廣昭(Kwang-Tsao Shao)
臺灣魚類資料庫・中央研究院(ウェブ電子版)
DOI: なし
▶ 見る - 8)Chaetodontoplus septentrionalis (Temminck & Schlegel, 1844)
(キンチャクダイ)
Rainer Froese & Daniel Pauly(編)
FishBase, World Wide Web electronic publication(2026)
DOI: なし
▶ 見る