アカネキンチャクダイは、1854年に新種として記載された魚ですが、近代になりキンチャクダイとキヘリキンチャクダイの交雑に由来する可能性があると言われていました。 現在では、DNA調査から交雑種であるとされ、最新の魚類リストからは削除されています。
概要
和名:アカネキンチャクダイ
英名:Orangeface angelfish
学名:Chaetodontoplus chrysocephalus (Bleeker, 1854)
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:夏~秋
- 主な水深:10~20m
- 映像特徴:アカネキンチャクダイと呼ばれていた、キンチャクダイとキヘリキンチャクダイの交雑種。もしくはキヘリキンチャクダイ。
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:1分25秒
- サイズ:約413MB
分類・分布
【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > キンチャクダイ科 > キンチャクダイ属
【分布】------
特徴・雑学
アカネキンチャクダイは、1854年にピーター・ブリーカーによって記載(3)されたキンチャクダイ科の魚です。
学名はChaetodontoplus chrysocephalusとされ、長い間、独立した一種として扱われてきました。
しかし近年、日本で見られるアカネキンチャクダイについては、キンチャクダイ Chaetodontoplus septentrionalis とキヘリキンチャクダイ Chaetodontoplus
melanosomaの交雑によって生じたものではないかと考えられるようになりました。両種の中間的な特徴を示すことなどから「交雑由来」であるという説が提唱されてきました。
キンチャクダイ科は交雑しやすいと言われる
▲ キンチャクダイ
▲ 雑種と考えられる個体
日常的な交雑・オリジナルの証明を欠くアカネキンチャクダイ
2009年になると、神前浩治らの研究グループは、日本産のアカネキンチャクダイについてDNAを用いた分子解析を行いました。 この研究(1)では、ミトコンドリアDNAの塩基配列のタイプである「ハプロタイプ」が調べられています。
調査の結果、アカネキンチャクダイとされる個体は、キンチャクダイ、もしくはキヘリキンチャクダイのどちらかのハプロタイプを持っており、アカネキンチャクダイ独自のハプロタイプは確認されませんでした。
この結果は、日本でアカネキンチャクダイと呼ばれてきた個体が独立した種ではなく、キンチャクダイとキヘリキンチャクダイの雑種であるという説を支持するものです。
こうした分類上の見直しを受け、現在の「日本産魚類全種リスト」では、アカネキンチャクダイは日本産の独立種としての掲載から削除されています。
ただし、Chaetodontoplus chrysocephalusという学名そのものが世界的に無効になったという意味ではありません(2)。 現状は、「DNA解析などによって見直されている」と考えるのが適切です。
キヘリキンチャクダイの成魚の姿を見ることは相当に稀
交雑種は繋がらない?
通称「イシガキイシダイ」と呼ばれるイシガキダイとイシダイの自然交雑種には、学名も標準和名もありません。 国際動物命名規約(ICZN)では、最初から交雑個体であることが前提とされているものは、基本的に通常の独立種として扱われません。
また、生物学的にも、別系統の種が交雑して生じた第一世代(F1)は、生殖時の減数分裂が不完全であったり、ホルモンバランスの異常によって性成熟に不全が生じたりすることで、安定して世代を重ねることが難しいとされています。 イシガキイシダイのF1個体の存在は確認されているものの、F2、F3といった安定した世代の固定は確認されておらず、独立した種にはなっていません。
標準和名は無く、通称イシガキイシダイ
たった1個体でも新種・19世紀のフロンティア
軍医であり博物学者でもあったピーター・ブリーカーは、オランダ領東インド(現在のIndonesia)へ軍医として赴任し、現地で膨大な熱帯魚類を収集・研究しました。 彼はインドネシア各地を巡り、漁師や市場からも魚を集め、数千種規模の標本を調査したことで知られています。 数多くの魚類を新種記載しましたが、アカネキンチャクダイもその一つです。 1854年、ブリーカーはアカネキンチャクダイ(Chaetodontoplus chrysocephalus)を新種として記載しました。 その後、1862年から刊行された大魚類図譜『Atlas ichthyologique des Indes Orientales Neerlandaises』にも、本種の図版(3)が掲載されています。 当時は「交雑種」という概念が現在ほど整理されておらず、1個体のみの標本に基づいて新種記載が行われることも珍しくありませんでした。 ブリーカーも、本種について「自身が確認した唯一の標本」であることを記していますが、それでも独立した稀少種として扱っていたことがうかがえます。
ピーター・ブリーカーによるアカネキンチャクダイ(Chaetodontoplus chrysocephalus)図版
▲ 左下がアカネキンチャクダイ
▲ 赤枠内が解説文
出典:Pieter Bleeker『Atlas ichthyologique des Indes Orientales Neerlandaises』T.8, Pl. CCLXXII(1862–1878)
Biodiversity Heritage Library
[原文]
Chaetodontopl. corpore ovali, diametro dorso-ventrali 2²/₅ in ejus longitudine ; latitudine corporis 3 circ. in diametro dorso- ventrali ; capite obtuso 5 et paulo in longitudine corporis ; linea rostro-frontali rectiuscula ; oculis diametro 3 et paulo in longi- tudine capitis, diametro 1 et paulo distantibus ; osse praeorbitali oculi diametro humiliore edentulo ; dentibus vomerinis nullis ; praeoperculo postice denticulato inferne edentulo, angulo spina unica oculo longiore ; suboperculo interoperculoque dentibus con- spicuis nullis ;
(中略)
Syn. Holacanthus chrysocephalus Blkr., Spec. pisc. Javan. nov., Nat. T. Ned. Ind. VII p. 428 ; Günth., Cat. Fish. II p. 54.Hab. Java (Batavia) ; in mari. Longitudo speciminis descripti 170m/m.
Rem. Le Chaetodontoplus chrysocephalus rappelle, par la distribution générale des couleurs du tronc et des nageoires, le Chaetodontoplus mesoleucus, mais il manque de bande oculaire et est fort distinct par les écailles qui sont beaucoup plus nombreuses et non écailleuses, par la dorsale molle qui mesure 1¹/₂ fois dans la dorsale épineuse, par les virulations bleues de la tête, etc. — L’espèce est fort-rare. Je n’en ai jamais vu que l’individu décrit.
[訳]
Chaetodontoplus chrysocephalus。体は楕円形で、体高は体長のおよそ 2と2/5 分の1。体の厚みは体高のおよそ 3 分の1ほどである。頭部はやや鈍く、頭長は体長のおよそ 5 分の1強。吻から額にかけての輪郭は比較的まっすぐで、眼は頭長のおよそ 3 分の1強、両眼間隔は眼径とほぼ同じかわずかに広い。 眼前骨には歯がなく、鋤骨歯も存在しない。前鰓蓋骨後縁には細かな鋸歯があり、下部には歯がなく、隅角には眼径より長い単一の棘を備える。間鰓蓋骨および下鰓蓋骨には目立つ棘はない。
(中略)
Holacanthus chrysocephalus Blkr. として『Species Piscium Javanorum Novorum』および『Natuurkundig Tijdschrift voor Nederlandsch-Indië』第7巻428頁に掲載。Günther『Catalogue of Fishes』第2巻54頁にも記載される。産地はジャワ(バタヴィア)周辺の海域。記載個体の全長は170mm。
注記:Chaetodontoplus chrysocephalus は、体や各鰭の全体的な配色において Chaetodontoplus mesoleucus(チリメンヤッコ) を思わせる。しかし、本種には眼帯がなく、鱗ははるかに多く、頭部に青い線模様を持つ点などによって明確に区別される。軟条部背鰭は棘条部背鰭の約1と1/2倍の長さを持つ。 本種は非常に稀であり、私は記載したこの個体以外を見たことがない。
食・利用
食用として一般流通する魚ではありません。
毒・危険性
人に対する毒や危険な棘を持つ魚ではありません。
交雑種は毒の部位が変わる場合があるという
参考資料
- 日本産魚類全種リスト(分類情報)
▶ 見る - JAMSTEC BISMaL(分類情報)
▶ 見る - World Register of Marine Species(分類情報)
▶ 見る - 原色魚類大図鑑・北隆館・阿部宗明監修
- 1)アカネキンチャクダイは雑種か?:分子分析によるアプローチ
神前悠治・馬淵浩司・瀬能宏・増田元保・西田睦
日本魚類学会年会講演要旨 36th, p.49(2003)
DOI: なし
▶ 見る - 2)Atlas ichthyologique des Indes Orientales Neerlandaises
(オランダ領東インド魚類図譜)
Pieter Bleeker
Frédéric Muller(1862–1878)
Biodiversity Heritage Library
▶ 見る - 3)Article 17. Names found to denote more than one taxon, or taxa of hybrid origin, or based on parts or
stages of animals or on unusual specimens
(第17条 複数分類群・交雑起源・部分標本などに基づく名称)
International Code of Zoological Nomenclature(ICZN)
International Commission on Zoological Nomenclature
▶ 見る