アカエソ|必殺の武器

Synodus ulae

概要

アカエソ:Synodus ulae Schultz, 1953

撮影地:静岡県伊東市

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > ヒメ目 > エソ科 > アカエソ属 > アカエソ

南日本、伊豆諸島、小笠原諸島、琉球列島

特徴・雑学

アカエソは細長い円筒形の体をもつエソ科の魚で、体色はやや薄い赤〜褐色。体側には赤褐色の横帯が8〜9本入り、和名どおり全体に赤みを帯びた印象の魚です。
体長は30〜35cmほどに成長し、頭部はやや縦に扁平で大きな口を持ち、鋭い歯がびっしりと並びます。 顎にある歯の他に、上顎(口蓋骨)や舌(基舌骨)にまで歯があり、一度咥えた獲物は絶対に逃がさない必殺の構造になっています(*1)。

生息場所は、浅い岩礁やサンゴ礁に隣接する砂地・砂礫底です。 海底にぺたりと伏せていたり、砂に半分ほど体を埋めて潜み、近くを通る小魚や甲殻類などの獲物を待ち伏せして、素早く飛びかかって捕らえます。 普段はほとんど動かないため、一見すると鈍そうに見えますが、獲物が射程に入った瞬間だけ驚くほど俊敏に突進します。
一方、目の前の魚が通りがかったときだけでなく、条件によっては水面近くまで浮上して激しい激戦を展開することもあります。

エソには、マエソ、オキエソ、トカゲエソなど、たくさんの種類がありますが、一般の釣り人やダイバーのあいだでは、まとめて「エソ」と呼ばれることも多く、 加工品となる際も分けられていない場合がほとんどです(*2)。

参考動画:水面まで獲物を追うアカエソ

▶ 「アカエソのハンティング」の詳細ページを見る

参考動画:獲物を咥えたオキエソ

▶ 「オキエソの捕食」の詳細ページを見る

食・利用

エソの仲間は水っぽく淡泊な肉質で小骨が非常に多いために、家庭での食用には不向きとされ、未加工の状態で流通することはありません。 その一方、エソ類は日本各地で古くから食用とされ、特に「すり身魚」として重要な地位を占めてきました(*3)。
江戸時代の本草学書『大和本草』(貝原益軒, 1709)にも「生臭みがあり、上等な魚とはいえない。病人には食用をすすめられない。 しかし、その肉をすりつぶしてカマボコにすると美味である。」と記され、古くから加工して利用する上品な白身魚として認識されていたことがわかります。*4

細く柔らかい骨を多く含むため刺身などの生食にはあまり向かず、すり潰して加工することで真価を発揮する魚です。 日本各地の伝統的な練り物――例えば九州の「さつま揚げ」、山口の「蒲鉾(かまぼこ)」、愛媛や広島の「じゃこ天」などはいずれもエソ類を主原料の一つとしています(*5*6*7)。
現代でも漁獲地の周辺では、エソを「ネリミ」「ネリゴ」などと呼び、地場加工のすり身や魚肉団子、つみれ汁、揚げ天などに広く利用され、 「エソは蒲鉾の原料の中でも最高級」(*8*11) とされています。

【地方名(地域)】*アカエソ以外のエソ科を含む
ヨソべ・タイコノバイ・オトコボラ(石川)*9、セエソ・セヨソ・セギス・ドンコ・ヨソ・オンノチュンバソ・フリイユ・イスイ(鹿児島)*10、 バカエソ(富山)、イモエソ(大阪)、トゥイーブ(沖縄)*12

毒・危険性

有毒線や毒棘はありません。

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