オキエソ|海底の大食いハンター

Trachinocephalus myops

概要

オキエソ・Trachinocephalus myops (Forster, 1801)

撮影地: 静岡県伊東市 水深6

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > ヒメ目 > エソ科 > オキエソ属 > オキエソ

南日本、小笠原諸島、琉球列島。沿岸の砂泥底に棲息。

特徴・雑学

小魚を食べる肉食の魚です。普段は泳ぎ回ることなく海底でじっとして、目の前を通る獲物に突然襲いかかる「待ち伏せ型」のハンターです。 魚類以外にも「アミ類」をよく食べているという報告もあります。*1

映像では、そのままではとても飲み込めないような大きな獲物を咥えています。 一見すると、このままでは食べられないと思えますが、オキエソに限らず、魚類には大きな獲物を食べる構造があります。
魚類は、歯の付いた顎で獲物を捕らえることはできますが、人間(哺乳類)のように上下の顎で噛み切ってから、奥歯で「すり潰す」という機能は持っていません。 そのため、捕らえた獲物の向きを飲み込みやすいように整えたのち、喉の中にある「咽頭顎(いんとうがく)」と呼ばれる“第二の顎"を使って押し潰したり、 噛み切ったりしながら飲み込みます。
一度に飲み込めない大きな獲物でも、「咽頭顎」を繰り返し動かすことで段階的に奥へ送り込み、時間をかけて嚥下(えんげ)します。*2

映像の後半では、アカエソがアオヤガラの幼魚を飲み込む様子があります。長いアオヤガラは、尾の方から咽頭顎で砕かれ、生きたまま飲み込まれています。

参考映像:アカエソのハンティング

食・利用

エソの仲間は水っぽく淡泊な肉質で小骨が非常に多いために、家庭での食用には不向きとされ、未加工の状態で流通することはありません。 その一方、エソ類は日本各地で古くから食用とされ、特に「すり身魚」として重要な地位を占めてきました。*3
江戸時代の本草学書『大和本草』(貝原益軒, 1709)*4 にも「生臭みがあり、上等な魚とはいえない。病人には食用をすすめられない。 しかし、その肉をすりつぶしてカマボコにすると美味である。」と記され、古くから加工して利用する上品な白身魚として認識されていたことがわかります。

細く柔らかい骨を多く含むため刺身などの生食にはあまり向かず、すり潰して加工することで真価を発揮する魚です。 日本各地の伝統的な練り物――例えば九州の「さつま揚げ」、山口の「蒲鉾(かまぼこ)」、愛媛や広島の「じゃこ天」などはいずれもエソ類を主原料の一つとしています。*5*6*7
現代でも漁獲地の周辺では、エソを「ネリミ」「ネリゴ」などと呼び、地場加工のすり身や魚肉団子、つみれ汁、揚げ天などに広く利用され、 「エソは蒲鉾の原料の中でも最高級」*8*9 とされています。
【地方名(地域)】*アカエソ以外のエソ科を含む
ヨソべ・タイコノバイ・オトコボラ(石川)*10、セエソ・セヨソ・セギス・ドンコ・ヨソ・オンノチュンバソ・フリイユ・イスイ(鹿児島)*11、 バカエソ(富山)、イモエソ(大阪)、トゥイーブ(沖縄)*12

毒・危険性

有毒腺や毒棘はありません。

参考資料

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