オキエソ

グルメな大食いハンター

Trachinocephalus myops

オキエソがゆっくり泳いでいるというシーンを見ることは、ほとんどありません。 たいていの場合、海底でじっとしているか、ダイバーに驚いて高速で逃げるかです。 彼らがじっとしているのは獲物を狙うためで、気づかずに目の前を通りすぎた魚は餌食になります。

🔬 専門資料・出典引用(16件)

概要

和名:オキエソ

英名:Lizardfish

学名:Trachinocephalus myops (Forster, 1801)

提供映像(サンプル映像は低画質版です)

分類・分布

【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > ヒメ目 > エソ科 > オキエソ属 > オキエソ

【分布】南日本、小笠原諸島、琉球列島。沿岸の砂泥底に棲息。

特徴・雑学

エソ科の魚は小魚を食べる肉食の魚です。 普段は泳ぎ回ることなく海底でじっとして、目の前を通る獲物に一瞬で襲いかかる「待ち伏せ型」のハンターとして知られていますが、条件によっては水面近くまで上昇して激しい狩りをすることもあります。 また、魚類以外にも「アミ類」をよく食べているという報告もあります(1)。

水面まで激しく追いかけるアカエソのハンティング アカエソがツノダシを捕食しようと水面近くまで追いかける水中映像。

空中戦は不利なようだ

時折、そのままではとても飲み込めないような大きな獲物を咥えている場面に出会います。 大きな獲物ほど逃げる力も強くなりますが、エソの仲間には顎にある歯の他に、上顎(口蓋骨)や舌(基舌骨)にまで歯があり、一度咥えた獲物は絶対に逃がさない必殺の構造になっています(2)。

オキエソに限らず、魚類には大きな獲物を食べる構造があります。 歯の付いた顎は獲物が逃げないように抑え込むためのもので、人間のように奥歯で「すり潰す」という機能は持っていません。 そのため、捕らえた獲物の向きを飲み込みやすいように整えたのち、喉の中にある「咽頭顎(いんとうがく)」と呼ばれる“第二の顎"を使って飲み込みます。
一度に飲み込めない大きな獲物でも、「咽頭顎」を繰り返し動かすことで段階的に奥へ送り込み、時間をかけて嚥下(えんげ)します(3)。

アオヤガラを丸飲みにする夜のヒラメ 夜の海底でアオヤガラを丸にするヒラメの水中映像。

獲物は吸い込まれるように飲み込まれてゆく

ベラやブダイの仲間は、咽頭顎が非常に発達しており、硬い貝も砕くことができます。 咽頭顎の発達は、多様な餌を利用することを可能にし、魚類の進化と繁栄に大きく貢献したと考えられています(4)。

貝を砕いて食べるイラ イラが貝を砕いて食べる水中映像。咽頭顎で砕く様子が見られる。

ベラ科の咽頭顎で砕いて飲み込む

食・利用

エソの仲間は水っぽく淡泊な肉質で小骨が非常に多いために、家庭での食用には不向きとされ、未加工の状態で流通することはありません。 その一方、エソ類は日本各地で古くから食用とされ、特に「すり身魚」として重要な地位を占めてきました(5)。
江戸時代の本草学書『大和本草 諸品図下』(貝原益軒, 1709)では、骨が多いものの、洗いや焼き、煮物で美味しいとされています(6)。 蒲鉾に関する記載はありませんが、魚の性質や効能を説く本草学書であり、専門的な加工工程は記載の範疇外であったためと推測されます。

『大和本草諸品図』下巻(1715)
出典:中村学園大学 貝原益軒アーカイブ

[原文]
本書ニ載セリ。大河ノ下流、潮ノ通ル處ニアリ。河魚ナリ。長さ六、七寸、大ナルハ八、九寸バカリ。 横ハ一寸余。首小さク、目小さナリ。潮ハ白ク、口ノ傍ニ近クヒレ處、色ハ黒シ。 其ノ余ハ白シ。夏、旬アマネク多ク、大鼓アミナドノ物、コレラヲ捕ルハコレナリ。 和名、タチウオノ類ナリ。此ノ魚、大小、横骨多シ。乾シテコレヲ欠クニハ、其ノ骨、外ニアリテ見エルガ如シ。 腹下ニアリ。是レ鱛ナリ。此ノ魚、味良キ故ニ、彭湖ヤ五恨ノ二州ニ、鱛魚ノ骨多キコト、コレヲ言ヘリ。 此ノ魚、諸州ニコレアリ。江戸、大坂ニハ、コレヲ「モヤス」トイフ。 亦、身、細ク、切ッテ水ニ入ルトモ、アラヒニスルトモ、去ルベシ。焼イテモ良ク、物ニシテモ食ス。上品ナリ。

[訳]
本書に記載されている。大河の下流で、潮が通う場所に生息する河魚である。長さは6〜7寸(約18〜21cm)、大きいもので8〜9寸(約24〜27cm)ほど。 横幅は1寸強(約3cm以上)。頭は小さく、目も小さい。体表は白く、口の近くのヒレのあたりが黒い。 それ以外の部分は白い。夏になると広く多く見られ、大鼓(網漁)などで捕獲される。 和名ではタチウオの仲間とされる。この魚は大小を問わず小骨が多い。干してかじると、その骨が外側に突き出ているように見える。 腹の下の方に骨がある。これが「エソ」である。この魚は味が良いため、彭湖や五恨といった地方では、エソの骨が多いことについて言及されている。 この魚は諸国に生息している。江戸や大坂では「モヤス」と呼ばれる。 また、身が細く、切って水にさらしたり、洗いにしても良い。焼いても美味しく、煮物にして食べても上品な味わいである。

身は美味しいものの、細く柔らかい骨を多く含むため刺身などの生食にはあまり向かず、すり潰して加工することで真価を発揮する魚です。
日本各地の伝統的な練り物――例えば、鹿児島の「つけあげ」(7)、山口の「焼抜き蒲鉾(かまぼこ)」(8)、愛媛や広島の「じゃこ天」(9)などはいずれもエソ類を主原料の一つとしています。
現代でも漁獲地の周辺では「エソは蒲鉾の原料の中でも最高級」(10、11)とされています。

グルメな海底のハンター・アカエソ 練り物原料の高級品とされるアカエソの水中映像

練り物製品の高級原料とされる

毒・危険性

人に対する毒や危険性はありません。

参考資料

他の水中映像をチェックする
お問い合わせフォーム