ウミヒゴイ

Yellowband goatfish

Parupeneus chrysopleuron

2本のヒゲで獲物を察知すると、海底ごと喰らうような勢いで頭を突っ込み、捕食します。 ウミヒゴイの名前の由来は、錦鯉の先祖である緋鯉のように色鮮やかだから、ということですが、海から揚がった鮮魚の状態で見られる、真っ赤な体色から名付けられているようです。

🔬 専門資料・出典引用(13件)

概要

和名:ウミヒゴイ

英名:Yellowband goatfish

学名:Parupeneus chrysopleuron (Temminck & Schlegel, 1843)

提供映像(サンプル映像は低画質版です)

分類・分布

【分類】脊索動物門 > 条鰭綱 > スズキ目 > ヒメジ科 > ウミヒゴイ属 > ウミヒゴイ

【分布】南日本。太平洋、インド洋

特徴・雑学

ウミヒゴイは、ヒメジ科ウミヒゴイ属の魚で、やや細長く、左右に少し平たい紡錘形の体をしています。 吻が長く、口が前方にあるため、目と口が離れたような顔つきが特徴です。 下あごには2本のひげがあり、海底の砂や泥の中に隠れた餌を探すのに使います。

長い吻は、砂の中に口を差し込んで採餌する際にも、目を砂の上に保つことができ、外敵から身を守るうえで有利と考えられます。 同じウミヒゴイ属のオオスジヒメジでは、吻の長さを超えて深く掘ると目が砂に埋まり、周囲の外敵を発見しにくくなるという考察が示されています(1)。 このことから、長い吻は、周囲への警戒を保ちながら、より深い位置にいる獲物を捕食するのに適した形態と考えられます。

体色は、白銀から淡い赤色、濃い赤色まで、状態によって幅広く変化します。 目の後ろから尾びれの付け根にかけて、黄色い帯が走り、目の周囲や尾ヒレ、尻ビレには淡い青色の筋模様が見られます。

日本や台湾、オーストラリアなど、インド洋から西太平洋に分布します。 沿岸や内湾の砂底・砂泥底、岩礁やサンゴ礁の周辺にある砂地などに生息し、やや深い場所でも見られます。 単独、または数尾の集団で活動し、海底をひげで探りながら、砂や泥の中の甲殻類、軟体動物、多毛類などを掘り出して食べます。

味わってから食べる・味蕾のあるヒゲ

ヒメジ類の下あごにある2本のひげは「口ひげ(barbel)」と呼ばれ、海底の餌を探すための感覚器官です。 表面には味を感じる「味蕾(みらい)」が多数あり、餌を口に入れる前に、その化学的な情報を捉えることができます。 もし人に例えるなら、指先で味がわかるようなもので、触れただけで味がわかる仕組みです。
砂や泥を探る動作と味覚を組み合わせることで、海底に隠れた小さな動物を見つけます。 口ひげから届く情報は、脳内でも口ひげの各位置に対応して処理されるため、餌の存在だけでなく、口ひげのどの部分で反応したかを区別できる仕組みになっています(2)。

ヒメジ科の2種を調べた研究では、口ひげの先端に近づくほど味蕾の密度が高く、一方で個々の味蕾やその開口部は根元側で大きいことが確認されています。 また、味蕾の大きさは成長に伴って変化しており、口ひげの感覚器官としての構造は、部位や成長段階によって異なります(3)。 さらに、ヒメジ科14種を比較した研究では、口ひげの長さや味蕾の特徴が、生息環境と関連していることが示されました(4)。

砂地だけでなく、海藻の間も探るホウライヒメジ ホウライヒメジの水中映像

伊豆伊東では「オジサン」という名で売られる美味魚

シーボルトのウミヒゴイ

ウミヒゴイは、シーボルト(Philipp Franz Balthazar von Siebold)が1823年~1829年に、日本で収集活動をしたことによって新種記載された魚のひとつです。 その後、テミンク(Coenraad Jacob Temminck)とシュレーゲル(Hermann Schlegel)によって、1843年に『日本動物誌〈Fauna Japonica〉』の魚類編で Mullus chrysopleuron として記載されました。 『日本動物誌』は、シーボルトが日本で集めた動物標本や、川原慶賀ら日本人絵師の下絵をもとに、ライデン博物館の研究者たちが編纂したものです。

『日本動物誌(Fauna Japonica)』魚類編・図版12(ハーバード大学比較動物学博物館所蔵)
出典: Biodiversity Heritage Library(BHL)

標本なしの新種・根拠となりえる精密画とは

川原慶賀(かわはら・けいが)は、江戸時代後期に長崎で活動した絵師です。 1786年生まれとされ、没年は不詳です。出島への出入りを許され、シーボルトの日本研究のために、動植物や風景、人々の暮らしを描きました。

ウミヒゴイは、実物の標本ではなく、慶賀の写生図をもとに新種として記載された魚の一つです。 慶賀の魚図は、保存標本では失われてしまう、新鮮な魚の色彩を伝える重要な資料として、いかに信頼されていたかがうかがえます。 鱗やひれ、体色、斑紋まで精密に描かれた絵が、『日本動物誌』の編纂や、ヨーロッパでの魚類研究を支えました。 慶賀が描いた魚の写生図は約500点にのぼりますが、その半数近くは航海中に失われたとされています(5)。 写真のない時代に描かれたこれらの絵は、日本の魚の姿を海外へ伝える、貴重な科学資料となりました。

『日本動物誌(Fauna Japonica)』魚類編(ハーバード大学比較動物学博物館所蔵)
図版108・図3 カタクチイワシ、図版58・図1 ムロアジ
出典: Biodiversity Heritage Library(BHL)

食・利用

伊東市内ではスーパーの地魚コーナーに、ホウライヒメジやオキナヒメジを見かけることがあります。 名称は有名なヒメジ科の一種である「オジサン」として販売されています。
まったく癖のないふんわりとした白身には適度な脂があり、刺身でも火を通しても絶品です。

ウミヒゴイを鮮魚店で見かけたことはありませんが、ヒメジ科の魚は総じて美味しいとされ、ウミヒゴイも食用として流通しています。 福島の鮮魚店では、鹿児島県産のウミヒゴイを入荷し、刺身にして販売した例が紹介されています(6)。 歯ごたえと旨味があり、上品な風味や香りも楽しめる魚であるとされています。

ヒメジは古代ローマの高級魚

ウミヒゴイを含むヒメジ科の魚は、欧州では古くから食材として親しまれてきました。 古代ローマの文献には、身の味に加えて肝や頭のおいしさが評価され、大型個体が非常に高い値段で取引されたことが記されています(7)(8)。
味のよい魚として珍重される一方、大きなヒメジを食卓に出すことは、富やぜいたくを示す意味も持っていました。 フランスでは「ルジェ・バルベ(rouget-barbet)」と呼ばれ、主に地中海や大西洋に生息するヨーロッパヒメジ Mullus surmuletus や、同属の Mullus barbatusが利用されています。 ウミヒゴイとは別の種ですが、下あごに2本の口ひげを持つ同じヒメジ科の仲間です。

毒・危険性

人に対する毒性や危険性はありません。

オジサンの水中映像 ヒゲを海底に差し込んで餌を探すオジサンの水中映像

立派なヒゲが特徴のオジサン。海底にヒゲを差し込んで餌を探し、摂餌します。

参考資料

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