ショウサイフグ

「庶民のフグ」と交雑のリスク

Takifugu snyderi (Abe, 1988)

概要

和名:ショウサイフグ・潮際河豚

英名:Vermiculated puffer

学名:Takifugu snyderi (Abe, 1988)

撮影地:静岡県伊東市

提供映像(サンプル映像は1280x720.30pです)

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > フグ目 > フグ科 > トラフグ属 > ショウサイフグ

琉球列島を除く日本各地の沿岸

特徴・雑学

ショウサイフグは全長30cmから35cmほどになる中型種で、沿岸の砂地などに生息し、港の中などでも見られることがあります。
体表は小棘のないなめらかな肌をしており、背面には茶色の不規則な網目模様がありますが、胸ビレ基部の後方には網目模様はありません。 背ビレと胸ビレは黄色味を帯びますが、腹面と尻ビレは白色で、尾鰭の下端は白くなります。
体内にテトロドトキシンを蓄積し、肝臓と卵巣は猛毒、皮と腸は強毒、筋肉と精巣(弱毒)は可食部位とされています(*1*2)。

 

本映像では、港内や浅瀬の砂地で、数匹のショウサイフグが泳ぐ様子をとらえています。
背面の細かい網目模様の他、白い腹面と尻ビレ、尾ビレ下端の白色、胸ビレ基部後部の様子からショウサイフグと判断しています。

 

【交雑種の発生】
近年、このショウサイフグとゴマフグ(Takifugu stictonotus)との大規模な交雑現象が、東北〜関東沖の太平洋側で確認されました。
2012年~2014年の福島県、宮城県においては、ショウサイフグ、ゴマフグの約4割(*3)、2022年~2023年の宮城県においては2割ほどが交雑種であると確認されています(*2)。 その後、交雑種の大発生は収束し、ほぼ見られなくなっているという報告がありますが、気候変動による海水温上昇が引き起こしているとの研究報告もあり、引き続きモニタリングされています(*4)。

 

【交雑種と可食部位】
フグの可食部位は、それぞれの種の多くの個体の毒性を調べて決められていますが、雑種についてはその可食部位がどこなのか、まだほとんど調べられていません。 現状は廃棄となっていますが、雑種は両親種の中間的な模様ではあり、外見上のバリエーションが大きいため、熟練の目利きでも判別が難しいとされています(*9)。
交雑そのものは自然界では珍しくない現象ですが、食用魚としては「どの種とどの種の組み合わせなのか」「毒の出方が変わっていないか」を慎重に見ていく必要があり、 国の研究機関が遺伝子マーカーを用いたモニタリングを続けています(*4)。

 

【フグ食の歴史】
縄文時代の貝塚からフグ類の骨が発見されています。 今から3,800年~3,500年前の集落である神明貝塚(*5)では、様々な魚介類と共にトラフグやショウサイフグの骨も出土しています。 その頃にはすでにフグ毒を回避する調理がされていたと考えられ、同様の集団が関東沿岸にあったと推測されています(*6)。

古くから食用にされてきたフグですが、豊臣秀吉の時代(16世紀末)に食中毒による死亡事故が頻発したため、武士への「フグ食禁止令」 が出されたと言われています。 ただし、当時は全国的に強制力のある法律制度は無く非常にあいまいであり、庶民に対しては黙認であったと考えられます。
江戸初期(1643年)に出版された料理書 『料理物語』 には、フグの汁ものである「ふくとう汁」 が載っており、庶民はフグを食べることに親しんでいたことがわかります(*7)。
俳人 松尾芭蕉(1644~1694)は 「ふぐ汁や鯛もあるのに無分別」(鯛もあるのにフグ汁とは軽率だ)と、フグ食に否定的な句を詠んでいます。 一方、小林一茶(1763~1828)は、「ふぐ食わぬ 奴にはみせな 富士の山」(フグを食べないような奴は富士山を見る価値がない)と、フグの味を絶賛しています。
この違いは、武士階級の出身である松尾芭蕉と、農民の出身である小林一茶との「フグ食禁止」の受け止め方の違いだと言われています。

江戸時代が終わり新政府になってもフグ食禁止に関しては曖昧なままであったようですが、転機が訪れます。
明治21年(1888年)になり、当時の首相・伊藤博文が下関の春帆楼を訪れた際、荒天で魚が手に入らず、やむなく提供されたフグを食べ「これは美味い」と絶賛したという逸話です。
これがきっかけとなり、フグ食が制度化され、現在のフグ調理制度へとつながりました。

 

【地方名】
ショウサイフグ・ゴマフグ(東京都)、ナゴヤ・ショウサイ(大阪市)、ナゴヤ(神戸市)、ナゴヤ・ナゴヤフグ(徳山市)、ナゴヤ(下関市)、ナゴヤ(北九州市)、 メアカフグ(青森市)、シオサイフグ(仙台市)、ナゴヤ(萩市)、ショウサイ(福岡市)、ナゴヤ(長崎市)、ナゴヤフグ・コマル(大分市)、ナゴヤ(浜田市)*6A
アオシバ(房州高の島)、イソフグ(壱岐)、カマヤフグ(鳥羽)、ガンバ(長崎)、ガンバチ(長崎)、ゴマフグ(東京)、コメフグ(秋田県象潟)、 シホサイフグ(紀州各地)、シホサエフグ(紀州各地)、ショウサイフグ(ショオサイフグ、シヨオサイフグ)(大阪、東京、江ノ島)、 ショサイフグ(シヨサイフグ)(志摩国浜島)、シワブク(讃岐国香川郡雌雄島村)、ススメフグ(熊本)、スズメフグ(熊本、新潟、福岡県柳河、有明海)、 チヤンフグト(鹿児島)、チンチンブク(島根、石見浜、田唐鐘村)、ドクフグ(長崎)、ナゴヤフグ(三崎、泉州岸和田、伊予国宇和島、石見浜田、玄海、下関)、 ナゴヤブク(広島県)、フク(滑川、高知、小野田、熊本)、フグ(熊本、小名浜、越後、新発田、有明海)、フクツトオ(高知浦戸)、フクト(土佐柏島、壱岐、浦戸)、 フグト(鹿児島、和歌山市雑賀崎、白浜)、フグトン(雑賀崎、白浜)、マガンバ(長崎)、マフク(熊本県、富山県)、マフグ(小名浜、肥後国天草郡牛深、富山、東京、有明海)、 マメフグ(越後)、モフグ(福井県)、モブク(福井)*6B
*6A山口県下関水産事務局の調査結果、6B『日本産魚名大辞典』

食・利用

筋肉と精巣(白子)が可食部位とされ、肝臓・卵巣・皮・腸などは有毒部位として全面的に食用禁止となっています(*2)。
定置網や底びき網、刺網、カットウ釣りで水揚げされ、シーズンは10月~12月とされています。

トラフグやマフグよりも安価でありながら、クセのない歯ごたえの良い白身が人気のフグで「庶民のフグ」と呼ばれます。 刺身や唐揚げ、一夜干しで楽しまれる他、出汁の出るアラは鍋やみそ汁に利用されます。

毒・危険性

猛毒のテトロドトキシンを蓄積するフグで、肝臓・卵巣・皮・腸などの内臓は猛毒、強毒性を示し、精巣と筋肉のみが可食部位とされています。

近年問題となっているトラフグとマフグ、ショウサイフグとゴマフグの交雑種に関しては、毒性が未解明であり特徴に個体差や世代差があるので、 判別できない場合は"確実に排除"することとなっています(*2)。

フグの判別は素人では難しい上、食用可能な部位はフグの種類によって異なるので、素人判断や素人によるフグの取扱い、調理は非常に危険です。
過去10年間での全国のフグ食中毒患者数は235人で、そのうち死亡者は5名。致死率は2.1%と高い確率になっています(*8)。

参考動画:産卵中のクサフグを襲うウツボ(フグ毒耐性があるとされる)

参考動画:クサフグの産卵

参考資料

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