概要
ショウジンガニ:Guinusia dentipes (De Haan, 1835)
撮影地:静岡県伊東市
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:1分30秒
- サイズ:358MB
- (SAMPLE動画は1280☓720です)
分類・分布
節足動物門 > 軟甲綱 > 十脚目 > ショウジンガニ科 > ショウジンガニ属 > ショウジンガニ
岩手県以南、韓国、台湾、南太平洋の磯や転石。
特徴・雑学
ショウジンガニは甲幅数センチほどの小さなカニです。
歩くような浅瀬から水深20m付近の岩礁に棲息し、海藻を主とする雑食性で、小動物も食べます。
甲羅はやや扁平で、岩肌に溶け込むような褐色〜暗色のまだら模様をしており、波打ち際の岩の割れ目やテトラポッドのすき間をすばやく走り回ります。
初夏になると、海藻や流れ藻、海中のロープや網などに1センチ弱の「メガロパ幼生」が見られます。
カニの幼生は小さくて観察しづらいことが多いのですが、ショウジンガニのメガロパ幼生は肉眼でもはっきりと見えます(*1)
参考動画:ショウジンガニのメガロパ幼生
各地の磯で普通に見られ、古くから漁師の家では当たり前のように味噌汁の具になっていました。
ところが、「ショウジンガニ」という統一した名前と味噌汁のイメージが全国的に共有されるようになったのは大正期以降だと考えられます。
鉄道で海辺の温泉や漁村を訪れる人が増え、民宿や漁師の家でふるまわれたショウジンガニのみそ汁が、旅の土産話として各地に語られていったことで、「ショウジンガニ=みそ汁」となったのでしょう。
現地ではごく普通の「磯の家庭料理」でも、旅人にとっては特別な体験です。 お椀の縁から小さな脚が飛び出した味噌汁、湯気といっしょに立ちのぼる濃い磯の香り、体に染み込む熱いだし――そうした体験が、 帰宅後に「海で美味しいカニの味噌汁を飲んだ」という話題になり、さらに旅行記や観光記事にも書かれることで広がっていったことでしょう。
現代の言葉でいえば、「口コミによってバズった」ような存在です。 テレビもSNSも無い時代に、「海辺の特別な味」として、ショウジンガニがいかに鮮烈な印象であったかがうかがえます。
食・利用
ショウジンガニは、身をたっぷり味わうカニというより、濃いだしを楽しむためのカニです(*2)。
甲羅のわりに筋肉量は少ないものの、殻や内臓から強い旨味が出るため、味噌汁や潮汁にすると驚くほど濃厚な風味になります。
房総半島、三浦半島、伊豆半島、紀伊半島、四国太平洋岸などの磯ではショウジンガニをぶつ切りにして鍋に放り込み、海辺ならではの味噌汁として楽しまれてきました。
一方で、ショウジンガニが一般の鮮魚店やスーパーにほとんど並ばないのは、商業流通に向かない性質を持っているためです。 大漁に獲れず、鮮度落ちも早いため出荷されることはなく、漁港周辺でのみ利用されてきました(*3)。 観光客がその味に感動しても、自分の街でショウジンガニを買うことはできません。
こうした事情から、ショウジンガニは今も「地元で獲って、その場で食べる」スタイルが主流です。 地域によっては、稲取や河津周辺の「ひっこくり」のように、専用の仕掛けを使ってカニを引っ張り出す遊びとセットで楽しまれることもあります(*4*5)。 獲ったカニをそのまま味噌汁に仕立てる体験は、観光プログラムとしても人気があり、現代でも「海で遊ぶ・獲る・食べる」をひとつながりで味わえる数少ない磯の食文化となっています。
毒・危険性
毒の情報はありません。
『フクロムシ』( Sacculinidae)が寄生している場合がありますが、ショウジンガニ自体の味の変化や毒化はありません。
フクロムシが寄生している場合、"カニのふんどし"と呼ばれる腹部に黄色い袋状の物体がありますが、それがフクロムシの卵巣で毒性はありません。
フクロムシは甲殻類であり食べることも可能ですが、気になる場合は除去すれば問題ありません。
参考動画:ショウジンガニに寄生するフクロムシ
参考動画:欠損足を再生するショウジンガニ(再生芽)