真夏、砂地の海底で群れるシロギスたちの水中映像です。 一般的に「キス」と呼ばれて食用にされるのは、このシロギスです。 砂地ならどこにでもいるという訳ではなく、真水の流れ込みがある場所を好むのかもしれません。 映像は2014年ですが、それ以降数が減り、2026年現在は同所でシロギスの姿はありません。
概要
和名:シロギス
英名:Japanese whiting
学名:Sillago japonica Temminck & Schlegel, 1843
- 撮影場所:静岡県伊東市
- 撮影時期:8月
- 主な水深:8m
- 映像特徴:砂地で群れるシロギス・夜のシロギス
提供映像(サンプル映像は低画質版です)
- コーデック:H264-MPEG4AVC
- 解像度:1920x1080
- フレームレート:59.94
- 長さ:3 分 59 秒
- サイズ:1.12GB
分類・分布
【分類】脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > キス科 > キス属 > シロギス
【分布】北海道南部~九州、朝鮮半島南部、黄海、台湾、フィリピン
特徴・雑学
透き通るような体と、癖のない味わいから「魚の女王」とも呼ばれるシロギスですが、常に同じ海域にとどまる魚ではありません。 夏が近づくと、水深5〜10mほどの砂地の海底に、雲のように群れる様子が観察されます。 キラキラと日差しが差し込む海底では、やや透けるような体色のため輪郭がぼやけ、魚だという認識がしにくくなる効果があるようです。
一面に砂地が広がる環境であっても、一様にシロギスが群れているわけではなく、何らかの好みの条件があると考えられます。 伊豆半島・伊東市の海岸では、海底からの湧水が豊富に見られますが、そうした湧水の出る場所を選んで集まっているようにも感じられます。
産卵期は夏であり、映像に見られるシロギスの群れは、繁殖行動に伴う集合である可能性が高いと考えられます。 冬季には水深30〜70mほどへ移動するとされ、ダイビングで目にする機会はほとんどなくなります。
200年前からあった「これはキスなの?」
シロギスと姿や名前が似ている魚は多くいます。 「これはキスじゃないの?」「キスと名前に付くんだから美味しいんじゃない?」という思いは江戸時代からあったようで、当時の図鑑にも現代の図鑑と同様の解説が掲載されています。 当時からキスは「味甘し、最上なり」と絶賛されており、他の魚と明確に区別されています。
アオギス(Sillago parvisquamis)は、外見がよく似ていますが、目が小さく吻が長いこと、胸鰭が黄色味を帯びること、体にうっすらと青みを帯びることで区別されます。
天保2年(1831年)に武井周作によって刊行された『魚鑑』には、きす(シロギス)の項目で“青ぎす”としてシロギスとアオギスを分けています。
『魚鑑』武井周作(きの部・きす)
[原文]
或は碧色を、帯のものあり、味ひ佳といへども小毒あり、病者には忌むべし[訳]
あるいは、青みがかった色の帯をもつものもいる。味は良いが、わずかに毒があるため、病人は食べない方がよい
今から200年ほど前には、江戸前の海でアオギスが漁獲されたものと考えられますが、現在ではアオギスは、絶滅危惧IB類 (EN) に指定され、「近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」とされています。
「魚鑑」(きの部・きす)
▲ 出典:京都大学附属図書館
貴重資料デジタルアーカイブ(1)
トラギスはキスじゃない問題は江戸時代からあった
名前が似ている魚では、トラギス(Parapercis pulchella)をはじめ、クラカケトラギスやコウライトラギスなど「トラギス」と名の付く魚が多くいますが、シロギスとは縁の遠い別の科の魚です。
江戸時代から「虎ぎす」とされており、青ぎすと同様に『魚鑑』(1)のきすの項目に登場し、「生臭いので食料とはならない」とされています。
現在は様々な工夫が施され、天ぷらやフライで食用にされる種類もあります。
『魚鑑』武井周作(きの部・きす)
[原文]
又白黒の虎斑ありて頭丸く状はぜに似たるを虎ぎすといふ(中略)味ひよしといへども腥気あり食料とならず[訳]
また、白黒の虎のような斑紋があり、頭が丸くて形がハゼに似ているものを『トラギス』と言う。(中略)味は良いのだが、生臭みがあり、食材にはならない
姿は全く似ていない
将軍は毎日鱚だった
明治初期に、実際に大奥で従事した人々への聞き取りをもとにした記録があります(2)。 その中の将軍の食事に関する項目において、キスが登場します。 驚くことに、ひと月のうち三日間を除いてはキスが供され、残る三日間のみ、鯛やヒラメの尾頭付きが用いられていたといいます。
現代では、毎日同じ食事は物足りなく感じられるものですが、当時の将軍家においては、毒性の心配がなく、品質や供給が安定している点が重視されたことに加え、 毎日同じ形式で供すること自体が、将軍家の秩序や安定、さらには格式を保つ行為であったと考えられます。
『千代田城大奥』 朝野新聞社(1892)
[原文]
皿へは「キス」両様(りょうよう)と唱へて、鱠残魚(きす)を塩焼にしたると漬焼にしたるとを付るなり、三日(朔日、十三日、二十八日)には、 此の鱠残魚を代ふるに尾頭附(おかしらつき)を唱へ、鯛、比目魚(たひ、ひらめ)の類を焼てつけるを例とす、[訳]
お皿の献立には、『キスの両様(りょうよう)』と呼びならわして、キスの塩焼きと漬け焼きの二種類を盛り合わせる決まりでございました。 ひと月のうちの『三の日』(一日、十三日、二十八日)になりますと、このキスの代わりに『尾頭付き(おかしらつき)』と称しまして、鯛やヒラメといった魚を焼いたものを添えるのが、お決まりの作法でございました。
「千代田城大奥」キス両様
▲ 出典:国立国会図書館
デジタルコレクション(2)
シロギスの地方名
- あか、あかぎす:徳島
- あめのうお:三重県北部
- うでたたき:淡路
- かわぎす:鹿児島
- きす:神奈川・江ノ島
- きすこ:熊本・八郎潟
- きすご:関西、四国、九州、隠岐、下関、広島
- きつご:長崎
- こずの:播州、淡路
- さば:阿久根
- しらぎす:東京、大阪、有明海
- しろぎす:東京、秋田、寺泊
- どうほ:紀州
- はなまがり:秋田
- まぎす:東京
食・利用
江戸の町では、屋台文化の中で天ぷらが広まり、シロギスもその代表的な種として用いられていました。 油でさっと揚げることで、淡白な身の旨味が引き立ち、手軽に食べられる江戸前の料理として定着していったと考えられます。
クセのない淡白な身質と、加熱しても崩れにくい適度な弾力を持つことから、現在でもさまざまな調理法に用いられます。 代表的なのは天ぷらで、軽く揚げた衣の中にふっくらとした白身の旨味が引き立つ、定番の食べ方です。 そのほか、塩焼きや干物、フライなどにも適しており、シンプルな調理ほど素材の良さが際立つ魚といえます。
毒・危険性
シロギスに毒性はありません。
生息数はめっきり減っている
寿司ネタのコハダで有名なコノシロの幼魚