クロシビカマス|手間のかかる美味魚

Promethichthys prometheus

概要

クロシビカマス:Promethichthys prometheus (Cuvier, 1832)

撮影地:静岡県伊東市 (定置網内)水深27m

分類・分布

脊椎動物亜門 > 条鰭綱 > スズキ目 > クロタチカマス科 > クロシビカマス属 > クロシビカマス

本州中部以南、西太平洋、インド洋、大西洋。世界の熱帯〜亜熱帯域の外洋、水深150メートルから750メートルに広く分布(*1)

特徴・雑学

クロシビカマスは深海魚で、通常は水深150〜750mほどの海底付近や斜面沿いで暮らしていますが、夜間になると中層〜水面近くまで浮上してくる「鉛直移動」を行うと考えられています(*2)。
大きな目と鋭い歯を持ち、イカや小魚、甲殻類などを追って暗い海の中を素早く泳ぐ、外洋性のハンターです。

腹ビレは痕跡的にしか残っていません。
近縁に似ている種がありますが、クロシビカマスの側線は枝分かれすることなく1本です。 頭部背側から始まった側線は、背ビレの第4棘のところで大きく下にカーブし、その後は体側中央を尾までまっすぐに伸びます。(*3)。

【虹色素胞の輝き】
生きているときの体色は、背側が濃い青紫〜群青色に輝き、体側には金属光沢のある銀色の帯が走ります。 これは、タチウオやサンマ、カツオ、イワシのように、皮膚に「虹色素胞」を持つためです。 虹色素胞は「色」ではなく「反射」のコントロールを行います。
目から入った様々な情報は脳に伝えられ、状況に応じた信号が虹色素胞に伝えられることで、体表面の反射が変わり、不思議なほどの金属光沢を産みだします(*4)。

【クロという名前】 しかし、水揚げされると信号は失われ、クロシビカマスの場合は全身が真っ黒な魚体へと変化します。 この見た目が炭を連想させることから、「スミヤキ(炭焼き)」「サビ(錆)」「クロサンマ」など、色に由来する地方名が各地に残っています。
一方で、口が大きく鋭い歯を持つことから、綱を切るほどの魚「ツナキリ」の名で呼ばれる地域もあります。 伊東周辺では「ヤッパタ」と呼ばれ、地元の人々にはごく普通に親しまれている魚ですが、語源は不明です。
親しまれている地域ではあっても、生きているクロシビカマスが青く輝く美しい魚であることは知られていません。

本映像は定置網の協力の元、水揚げ後の網内部で撮影されたものです。
不定期ながらも一般のダイバーが網内部を観察できる機会もあり、漁業者とダイバーが共存している証といえます。

食・利用

クロシビカマスは、脂がのった白身で非常に美味しい魚として知られていますが、鮮度の落ちが早いため市場に出回ることは無く、地元の消費魚とされてきました。 刺身や炙りで濃厚な旨味を楽しむことができ、塩焼きや照り焼き、干物にしても身離れがよく、脂の甘みが際立ちます(*5)。

【並んだ小骨】 一方で、体の側面には「筋間骨(筋中骨)」と呼ばれる細長い小骨が皮膚のすぐ下に遊離して並んでおり(*6)、三枚おろしにした後も細かい骨が多く残ります。
筋間骨は何処とも繋がっていないため、捌く際に処理しずらい骨です。 そのため一般的な魚と同様に処理をすると、非常に食べにくい魚となります。
クロシビカマスの調理は「骨切り」を行ったり、三枚におろした後にスプーンで身をこそいだりと、ある程度のコツが必要です(*7)。

【地方名】
スミヤキ(神奈川)*A、ヤッパタ(伊豆半島 富戸・網代)*B、ヨッパタ(伊豆半島田子)*B、ヨッパ(伊豆半島安良里)*B、ヨツバチ(伊豆半島安良里)*B、サビ(伊豆半島白浜・須崎・伊豆大島)*B*2、 ヨロリ(和歌山)*2*5、シロガネウオ(鹿児島)*1、ナワキリ(伊豆大島・南大東島)*2*C

毒・危険性

クロシビカマスは毒はありません。
ただし、口の中には非常に鋭い犬歯状の歯が並んでおり、釣り上げた直後や調理の際に怪我をするおそれがあります。

参考動画:深海魚の仲間のイタチウオ

参考動画:深海魚テンガイハタの幼魚

参考動画:深海魚リュウグウノツカイの幼魚

参考資料

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