ゴマサバ

沿岸で育つ若魚たち

Scomber australasicus

概要

和名:ゴマサバ

英名:Spotted mackerel

学名:Scomber australasicus Cuvier, 1832

撮影地:静岡県伊東市、沼津市

提供映像(サンプル映像は1280x720/30pです)

分類・分布

脊索動物門 > 条鰭綱 > スズキ目 > サバ科 > サバ属 > ゴマサバ

日本近海を含む西太平洋の温暖な海域に広く分布し、黒潮や沿岸の水温環境に合わせて季節的に移動します。

特徴・雑学

ゴマサバは、体側に見える細かな斑点(ごま状の点)と、体の締まった流線形が特徴の回遊魚です。 マサバと見分けが難しい場面もありますが、模様の出方や体色の印象に違いがあります。現場では、ゴマサバとマサバが混群で観察されることも珍しくありません。

【様々な回遊ルート】
回遊の基本は「暖かい海域で産卵し、成長とともに索餌のため北上する」タイプで、秋冬には越冬・産卵に向けて南下すると考えられています。 一方で、すべてが大きく回遊するわけではなく、黒潮内側の陸棚域や島しょ周辺で過ごすグループも存在します。 東シナ海系群、伊豆諸島・黒潮域系群、外洋分散群など様々なグループがありますが、ルートが固定されている訳ではなく、海況によって行動の幅が出ます(*1*2*3)。

 

【文化と共に運ばれたサバ】
サバは2000年以上前から食べられてきたとされ(*4*5)、干物・しめ鯖・ぬか漬け(へしこ)など、傷みやすい魚を「おいしく安全に扱う」ための保存と調理の工夫が各地で磨かれてきました(*6)。 庶民の魚として日常に定着していたサバは、やがて人々の言葉や感覚の中にも深く入り込みますが、鯛や鰹、鮎のように祝いや美を象徴する存在ではありませんでした。 代わりに「鯖を読む」「鯖の生き腐れ」といった言葉に見られるように、市や台所、商いの現場に根ざした、暮らしの実感をそのまま映すかたちで言葉となっていきます。

こうした庶民の食品であったサバは、保存品として加工されることで、次第に都市から都市へと運ばれる存在になっていきました。 なかでも若狭と京都を結ぶ「鯖街道」は、塩を利かせて運ぶことで内陸の食文化を支え、人や物の往来を通じて都市間の交流を後押しした象徴的な例として知られています(*7)。
全国の都市を結んだサバは、単なる食品にとどまらず、食の知恵や商いの仕組み、暮らしの感覚といった文化そのものを運びました。 サバは、日本の庶民文化が形づくられていく過程を、静かに下支えしてきた魚だと言えるでしょう。

 

【雨の恵みを食べる】
映像は、伊豆半島の沿岸で5月から7月に観察されたゴマサバで、マサバも混ざっていると思われます。
摂餌している様子がありますが、河川から流れ出た淡水を由来とする有機懸濁物(NUTA)を食べているように見えます。 粒子そのものというより、表面に付着する微小生物(細菌・微細藻類・デトリタスなど)を含めて食べていると考えられます。

参考動画:古くから加工品として流通したタカベ

タカベの水中映像
▶ タカベのYouTube版を見る

食・利用

サバ類は近年で25万トンから30万トン規模が漁獲される重要水産資源で、まき網や底引き網、底刺し網などでまとまって漁獲されます(*8)。 加工は幅広く、冷凍・切り身・干物・缶詰・味噌煮や塩焼き用の加工品など、日常的な食材として流通します。

 

【サバと保存技術】
地域ごとの保存技術としては、酢で締めて鮮度と安全性を高める「しめ鯖」、若狭から京都へ運ばれた塩鯖を用い、強めの塩と酢で仕上げる「鯖寿司」、 そして福井県沿岸を中心に、冬場の脂ののったサバを塩漬けした後、米ぬかで長期熟成させる「へしこ」、さらに米と麹で再発酵させた「慣れ寿司」などが代表的です(*6)。
こうした伝統的な保存食としての価値に加え、近年では、サバがDHA・EPAといった不飽和脂肪酸を豊富に含み、良質なたんぱく質やビタミン類を供給する魚である点にも改めて注目が集まっています(*9*10)。
サバは、長い歴史の中で培われた「食の知恵」と、現代の栄養学の両面から評価される魚へと、再び位置づけられつつあります。

毒・危険性

サバは、生食や不十分な処理では食中毒リスクが高まりやすく、特にアニサキスなど寄生虫の危険性があります。 生で食べる場合は、確実な鮮度管理と適切な冷凍処理・下処理が重要です。

また、ヒスタミンによる中毒にも注意が必要です。
赤身魚(サバ類、カツオ類、マグロ類、サンマなど)や、その加工品では、常温で放置するなどの温度管理を怠ると、タンパク質を構成するアミノ酸の一種「ヒスチジン」からヒスタミンが生産されます(*11)。 ヒスタミン中毒は、顔面や耳の紅潮、頭痛、蕁麻疹、発熱が主ですが、まれにアレルギーに似た症状として息苦しさを感じることがあります。

「鯖の生き腐れ」と言われるほどに鮮度低下の早いサバを、安心して美味しく食べられるようになったのは、いにしえの人々の知恵と工夫の賜物と言えるでしょう。

参考資料

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