ウンモンフクロムシ|カニを操る寄生生物

Sacculina confragosa

概要

ウンモンフクロムシ:Sacculina confragosa Boschma, 1933

撮影地:静岡県伊東市 水深5m

分類・分布

節足動物門 > 顎脚綱 > 蔓脚下綱 > ケントロゴン目 > フクロムシ科 > Sacculina属 > ウンモンフクロムシ

日本沿岸(日本固有種)

特徴・雑学

映像のショウジンガニのお腹に見える黄色い塊は、カニの卵ではなくウンモンフクロムシという寄生性の甲殻類です。
ウンモンフクロムシは、ショウジンガニの他、イソガニ、イワガニ、ヒライソガニなどのイワガニ類に寄生する甲殻類で、フジツボの仲間です。
外から見えている袋状の部分は「エキステルナ」と呼ばれるフクロムシの生殖器官で、中身のほとんどは卵巣と卵で占められています。 一方、「インテルナ」と呼ばれる"本体"は、植物の根のような細い糸状の組織です。インテルナはカニの体内に張り巡らされ、内臓の周囲から栄養を吸い取ります。

【浮遊幼生からカニの内部へ】
フクロムシは幼生の段階では、甲殻類に典型的なノープリウス幼生ですが、変態するとフジツボなど"固着する甲殻類"と同じキプリス幼生の姿になり、寄生先となるカニを探します。
キプリス幼生がカニの表面に付着すると、注射針のような器官を突き刺して自分の体組織を流し込み、殻や脚は捨ててしまいます。 体内に侵入したインテルナは、カニの組織をほとんど壊すことなく内臓の周囲に広がり、カニが摂った栄養だけを効率よく横取りします。

【宿主に卵をケアさせる】
映像で見える黄色いエキステルナは、カニの腹節から外側にぶら下がるフクロムシの卵巣です。
カニはフクロムシに神経をコントロールされているため、それを自分の卵だと思い込み、ハサミで掃除したり、腹肢を動かして新鮮な海水を送り込んだりと丁寧に世話をします。 寄生したカニがオスであっても例外ではなく、腹部がメスのように広がって卵を抱えやすい形へと変形し、行動まで「メス化」させられてフクロムシの卵を守る行動をするようになります。

【宿主にオスを探させる】
エキステルナが膨らんでいる個体はすべてメスですが、繁殖のためにオスを探さないといけません。
オスは目に見えないほど小さく、海中を漂う生活をしており、メスは寄生しているカニをコントロールし、海中のオスを探すような行動をとらせます。 メスと出会えたオスは、エキステルナ内部の「レセプタクル」と呼ばれる小部屋に入り込み、交尾をして一生を終えます。

このようにフクロムシに寄生されたカニは、自身の精巣や卵巣が機能を失い、代わりにフクロムシの繁殖のためだけにエネルギーを費やす「寄生去勢」の状態になると考えられています。 カニが脱皮しても体内のインテルナはそのまま生き残るので、寄生から逃れることはほとんどできません。

SF映画さながらの生活様式ですが、磯でカニのお腹を覗いてみると、意外なほど高い頻度でフクロムシが付いている個体に出会います。 ショウジンガニの味噌汁や、磯ガニを観察しているときに、お腹に黄色い「たらこ」のような塊を見つけたら、それはウンモンフクロムシかもしれません。

食・利用

フクロムシ自体には毒性は知られておらず、寄生されたカニを誤って食べてしまっても健康上の問題はないとされています。 ショウジンガニの味噌汁など、小型の磯ガニを丸ごと煮て出汁を取る料理の場合でも、フクロムシが付いていたからといって毒性の心配はありません。 気になる場合には、調理の際に黄色いエキステルナの部分だけを取り除いてから鍋に入れるとよいでしょう。
フクロムシの卵巣そのものを食べる文化はなく、「不味くはないが、特に美味しいものでもない」といった程度の扱いです。 見た目が悪いため、通常は取り除かれます。

毒・危険性

ウンモンフクロムシが寄生する対象は、あくまでカニやヤドカリなどの甲殻類であり、人間の体に侵入して寄生することはありません。 また、毒性は無く食べても無害です。

参考動画:サメに寄生する「サメジラミ」

参考動画:エイに吸い付く「ウオビル」

参考資料

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